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怒り
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会議室の空気が、重く淀んでいた。ないこの最後の言葉が消えた瞬間、誰もが息を飲んだ。
ドアが静かに閉まる音が、まるで何かが決定的に終わった合図のように響いた。
最初に動いたのは、あにきだった。
「…おい、お前ら」
低い、抑えた声。
なのに、その一言で部屋全体が震えた気がした。俺は顔を上げられず、ただテーブルを見つめたまま固まっている。
隣のほとけも、肩を縮めて下を向いていた。あにきはゆっくり立ち上がると、俺の前に歩み寄った。
そして、迷いなくその胸ぐらを掴んだ。
「よくも…よくもそんなことできたな」
声は静かだった。
怒鳴っているわけじゃない。
でも、その静けさが逆に恐ろしい。
「ないこが…どれだけお前のこと信じてたか、分かってんのか?」
唇が震えた。
言葉を探しているのに、何も出てこない。「俺…」
「黙れ」
あにきの手が、少し強く締まる。
シャツの襟が、くしゃりと歪んだ。
その隣で初兎も立ち上がっていた。
いつも柔らかい声が、今は鋭く尖っている。「まじで…何やねん、お前ら。
ないちゃんがあんな顔して出てったん見て、まだ何も言えへんの?」
初兎の視線は、俺とほとけを交互に刺すように見つめていた。
「ないちゃん、ずっと我慢してたんやろ?
お前らが…そんなことしてる間、ないちゃん一人で壊れていってたんやぞ……ッ!」
声が少しずつ大きくなっていく。
初兎の拳が、ぎゅっと握られていた。
「ふざけんなよ…! お前ら、ほんまに最低や!」
その瞬間、りうらが小さく息を吐いて立ち上がった。
「…ちょっと、待って」
りうらの声は、いつものように穏やかだった。
でも、どこか切迫した響きがある。
「あにき、しょーちゃん。 そんなことしても…意味ないよ」
あにきの手が、ぴくりと止まった。
「りうら…」
「怒る気持ちは、りうらも同じ。
でも、今ここでまろやいむを責めても、ないくんは戻ってこない。 …それに、ないくん自身が『怒らないで』って言ったよね」
りうらは悲しげに微笑んだ。
その笑顔が、余計に胸を締めつけた。あにきは、ゆっくりと手を離した。
俺の胸ぐらが、くしゃくしゃのまま元に戻る。「……分かった」
あにきは深く息を吸って、目を閉じた。
「頭、冷やしてくるわ」
そう呟くと、踵を返して部屋を出て行った。
ドアが閉まる音が、また一つ響く。初兎は、まだ拳を握ったままだった。
でも、りうらの言葉に少し肩の力が抜けたようだ。
「……僕、ないちゃん追ってくるわ」
初兎はそう言って、急いで部屋を飛び出した。
廊下に、足音が遠ざかっていく。残されたのは、りうらと、俺とほとけだけ。静寂が、再び落ちた。りうらはゆっくりと二人に向き直った。
表情は穏やかだったけど、目は少し赤くなっている。
「…りうら、正直に言うね」
声は静かで、優しい。
なのに、その言葉の一つ一つが、重く刺さった。
「俺、いむとまろのこと…許せない。
今、すごく怒ってる」
ほとけの肩が、びくりと震えた。
「ないくんに…よく、そんなことできたね」
りうらは、ただそれだけ言った。
責めるような強い言葉じゃない。
でも、その静かな一言が、俺ら二人の胸に深く突き刺さった。
「りうらは…ないくんのこと、大事だから」
そう呟くと、りうらは小さく息を吐いて、ドアの方へ歩き出した。
「じゃあ、りうらも行くね。 …二人とも、ちゃんと向き合って」
ドアが閉まる。
今度こそ、本当に二人だけになった。俺はテーブルに両手をついて、俯いたまま動けない。
ほとけは、唇を噛んで、涙を堪えている。誰も、何も言えなかった。ただ、静かに、下を向くことしかできなかった。
コメント
2件
初コメ失礼します🙌🏻💞めっちゃ好きです🥹💞続き待ってます😻