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「う、うるさいんだよ!髭モジャ!あんた!適当な事を言うんじゃないよっ!あたしは、あんたの巾着なんぞスッてないよ!紙切れをスッただけだ!」


おや、と、崇高《むねたか》が、言った。


「おなご、スッたと、認めてるいるではないか?」


あっと、女が、息を飲む。


「あ、あたしは、巾着なんぞっ!」


必死に言い訳しようとする女に、隠れるように姿を見せなかった初老の女が、出てきて、息巻いた。


「まったく、余計なことを、言いやがって!!」


そして、一斉に、男女達は、逃げようと、動き出す。


若、が、モォー、と、鳴くとふたたび暴れ始めた。


うわっ!と、男女達は、叫び、後ずさる。


「これまで、ということだな。詳しくは、我らが詰所で、聞かせてもらおう」


崇高の言葉に、入り口では、検非違使が、列を組み、逃げ道を塞いだ。


こうして、その場に詰めていた男女は、検非違使に捕らえられ、連れて行かれた。むろん、八原も、含まれている。


「いいのかよっ!勝手に、捕まえてっ!上の命令は、あるのかよっ!」


八原は、往生際が悪かった。


そんな、勢いにも、崇高は、臆することなく言った。


「何、我らは、ただ、話を聞かせてもらうだけのこと。この瓦礫の中では、どうにもならん。詰所へ、お越し頂き、話をしようと、それだけのことだが?若者よ?」


その言葉に、野次馬から、わあっと、歓声があがった。


八原は、チッと舌打ちをした。


「まったく、小悪党のくせに、口だけは達者なことよ」


崇高は、呆れながら言った。


「それでは、髭モジャよ、我は、ここで。お主も、達者でな」


配下の者が、心当たりのあるものは、願い出るようにと、証拠である、金子入りの巾着などを運びながら、野次馬へ声をかけている。


「我も、行かねば……」


「おお、そうじゃな。と、言いたいところじゃが、崇高よ、すまんが、もそっと、力をかしてくれぬか?」


「お?と、いうと?」


「詳しいことは、言えぬが、ワシと、屋敷へ来て欲しいのじゃ」


「髭モジャよ、屋敷へというのは、つまり、大納言様の……」


迷惑はかけぬと、髭モジャは、言い切り、崇高を見る。


何か、事情があるのだろうと、読み取った崇高は、


「よし、髭モジャよ!大捕物の後じゃ、久方ぶりに、お前えの所で、語り合おうではないか」


と、髭モジャの願いに乗った。


「さあ、この牛を連れて帰るぞ!他の牛を、見かけたら、皆、髭モジャへ、知らせてやってくれ」


野次馬を、散らすためか、崇高は、騒ぎを納めようとした。


「すまぬのお」


「なあーに、あれだけ、ごっそり捕まえられたのだ、構わぬことよ。しかし、あの、最後の若僧め、痛いところを、突きおったなぁ」


わははは、と、髭モジャが、笑った。


「命令と、来たか。そんなもの。上に願い出ている間に、都の悪人は、逃げ出してしまうわ。もしも、お咎めを受けたら、崇高、お前も、ワシのように町人になればよい」


「おお、そうじゃったなあー、確か、五つ六つの、女童子に、お主は、噛みつかれ、して、髭モジャと、呼ばれるようになったのだったなあー」


崇高も、連られて笑った。


「そうじゃ、その、女童子が、今、危ないのじゃよ」


「……一刻を争う、ということだな」


お屋敷の中で起こっていること、表には、できないと言う、髭モジャに、崇高も、何かを察したようで、しかし、急いでも、ここからだと、かれこれ時が、かかってしまうと、考えあぐねている。


と、もおー、と、若が鳴いて、前足を折り曲げた。


「おお!若や!乗せてくれるのか!」


髭モジャは、若に、またがり、さあ、崇高、お前もと、誘う。


「しかし、どうやれば、その様に、牛が懐くのだ。以心伝心というやつではないか」


呆れつつ、崇高も、牛にまたがった。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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