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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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はあー、と、紗奈は息をついた。


久方ぶりの、全速力、女童子と呼ばれるようになってから、こうまで走った事があっただろうか。


などと、思いつつ、改めて、大納言家の敷地の広さに、感じ入っていた。


「無駄に、広いというか、今まで気に止めていなかったけれど、一体、どれだけの広さなの!」


息を整えると、紗奈は再び走り出した。


女達の住み家、北の対屋《ついや》の裏側辺りまでは、来ている。


目指す、調理場《くりや》のある棟は、更に、奥。


「うーん、なんとか、半分位の所には、達しているのかしら?」


これだと、どうしても、タマの方が先に着いてしまう。


紗奈は焦れた。


あの犬のこと、調子に乗って、ペロッと、こちらの計画を喋ってしまいそうだ。とにかく、急がねば。


すると、その、タマが、先でちょこんと座っていた。


「え?!新《あらた》のところへ行ったんじゃ……タマ!」


「あー、上野様、遅いよー!」


「遅いって、タマ、お前なんで、ここに?」


「上野様をお待ちしておりました!どうせなら、一緒に行った方が良いと、ここで、待つように、言われて」


「……言われて?」


「あ、違った。言って、じゃないや、えーと……」


「タマ!お前、誰の差し金で、動いているのです!そもそも、お前は、なんなのよ!」


「タマは、犬、犬、犬ですよ、犬!!上野様!犬!!」


わん、わん、わん!と、タマは、犬らしく、紗奈へ、向かって吠えた。


「ひっ!!犬!犬!しっしっ!」


紗奈は、タマの勢いに、思わず後退った。


「えー!上野様、結局、タマが、嫌いなんですか?犬が、嫌いなんですか?どっちなんですか!」


「犬ですっ!」


ほんとかなぁ、信じられないなぁ、と、タマは、ぶつくさ言っている。


「ところで、タマ、誰が、いえ、何があったのです?」


「あっ、晴康《はるやす》様が、そうしろと」


は?


この犬は、何を行っているのだと、紗奈は思いつつ、ポトリと、タマから何かが、転がり落ちるのを見る。


ん?


「あーーー!!ちっち!!」


地面に、あの、人形が、落ちていた。


「タマ!これは、守恵子《もりえこ》様の、お気に入りだった、人形ですよっ!それを、お前は、どさくさに紛れて、自分の遊び道具にしようと、持ちだしたのですねっ!!」


「えっ、そうじゃなくって、それに、人形じゃなくてっ……」


「なんですか!犬のくせに、言い訳など、してっ!」


えっ、えっ、ひどいよー!上野様!と、タマは、今にも泣き出しそうな顔をした。


「とりあえず、この、ちっちは、預かります!」


紗奈は、転がっている人形を拾い上げると、懐にしまった。


「まっ、いいわ、さあ、行きましょう。って、言っても、なんだか、気が遠くなるなぁ。この、広さだもの」


──いっそ、叫んでみたら?


どこからか、声、がした。


「……タマ?……じゃないわ、いったい……誰?」


「あー!叫んで呼ぶのがいいと思いますっ!!だって、また、戻らなきゃいけないんですよっ!上野様!」


「あー!そうだわね、体力残して、おかなきゃ!ここからなら、聞こえるわよね!」


紗奈は、聞こえた声に、気を止める訳でもなく、いいかも!と、乗る気になった。


「じゃ、行くわよ!」


新ーーーー!!!

わおーーーん!!!


紗奈と、タマは、声を張り上げた。


先で、何かが、動く気配がした。


「お?なんでぇ、お前ら」


新が、不思議そうな顔をして、外に出て来た。


「まったく、何、吠えてんだ。仮にも、御屋敷だろ」


「そうなんだけど、ちょっと、急ぎの、用があって!手伝ってもらいたくて!」


紗奈の胸では、鼓動が高鳴っていた。


まさか、新が、あっさり表へ出て来るとは、思わなかったからだ。


そして、これから始まるのだと、新に、バレてはならないのだと、思いつつ、紗奈は、慎重に、口火を切った。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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