テラーノベル
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連休の朝は、静かだった。
学校もない。
時間に追われる理由もない。
それだけで、
すちは少しだけ息がしやすくなっていた。
「……どこ行く?」
みことは靴を履きながら言った。
「人、多いとこは避けよっか」
「……うん」
遠出じゃない。
近くの商店街と、公園。
それだけの予定。
それでも、
“誰かと一緒に外を歩く”こと自体が、
すちにとっては初めてだった。
人の声。
笑い声。
休日の空気。
(……普通、って、こういうのか)
そんなことを考えていた。
問題は、
ほんの一瞬だった。
店の前で、
みことがスマホに目を落とした、その隙。
「……すち?」
返事が、ない。
振り返った瞬間、
人の流れの向こうで、
見覚えのある影が見えた。
背筋が、凍る。
「……っ」
走ろうとしたが、
人混みに阻まれる。
「すち!!」
名前を呼ぶ声は、
雑音にかき消された。
すちは、
腕を掴まれた瞬間、理解した。
(……だめだ)
力は、強くない。
でも、逃げ道を知っている手。
「……騒ぐな」
低い声。
頭が、真っ白になる。
みことの顔が、
一瞬だけ浮かんで、消えた。
数分後。
みことは、
息を切らして警察に駆け込んでいた。
言葉が、上手く出ない。
「……友達が、連れていかれて……」
手が、震える。
状況説明は、断片的だった。
それでも、
名前と特徴を聞いた警官の表情が変わった。
「……保護案件ですね」
その一言で、
みことは初めて気づく。
(……これ、もう、逃げじゃない)
幸い、
すちは遠くへは行っていなかった。
「……保護されました」
その言葉を聞いた瞬間、
みことは、その場に座り込んだ。
病院の待合室。
すちは、
毛布を肩にかけられて座っていた。
大きな怪我はない。
でも、目が、怯えている。
みことが近づくと、
すちは、はっきりと顔を歪めた。
「……ごめん」
「謝るな」
みことの声は、
震えていた。
「俺の、せいだ」
「……ちがう」
すちは、小さく首を振る。
「……俺が、弱いから」
その言葉に、
みことは、初めて強く言った。
「違う!!」
周りが、静まる。
「弱いんじゃない」
深く息を吸って、
声を落とす。
「守られるべきなんだ」
その後の話は、
早かった。
警察。
学校。
児童相談の窓口。
「もう、戻らせません」
みことは、
はっきり言った。
「本人の意思も、確認します」
すちは、
小さく、でも確かに言った。
「……戻りたく、ない」
その一言で、
流れは決まった。
夜。
二人で並んで座る。
外は、連休の続きみたいに静かだった。
「……また、俺のせいで」
「違う」
みことは、
今度は、静かに言う。
「俺が、離さなかったらよかった」
そして、
すちの手を、ちゃんと握る。
「次は、離さない」
約束じゃない。
誓いだった。
すちは、
その手を、初めて自分から握り返した。
怖さは、消えない。
過去も、追いかけてくる。
それでも。
選ばれた場所に、戻ってきた。
必要とされるまでに。
それはもう、
「待つ」話じゃなくなっていた。
コメント
1件
これはほんとにきたいできる…っ!✨・:*+.\(( °ω° ))/.:+