テラーノベル
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『……人間の感情として……ありえない……あうっ!?』
エロスの言葉に幽美は鼻に詰め込んだティッシュと共に鼻血を吹き出し、大きく仰け反って、チェアと共に倒れた。
「大丈夫ですか怪奇先輩!?」
書也が駆け寄って助け起こそうとすると、幽美は鼻血を手で拭き、拒否するように真っ赤な掌を向け、自ら立ち上がる。
「大丈夫……もう既に致命傷」
「大丈夫じゃねえじゃねえか!?」
幽美のだらだらと出る鼻血に書也は思わず声を上げる。
「幽美、保健室、行くか? 本当に無理しなくていいぞ」
教子先生が本当に心配そうに言う。
『本当に大丈夫だから……最後まで意見を聞かせて』
駆け寄った愛に再びポケットティッシュで拭いてもらうと、幽美はティッシュをまた鼻に詰め込んだ。
「以上ですわ……個別に気になる部分があれば、また相談に乗りますわよ」
エロスが笑顔で言う。
『ありがとうエロス……良いアドバイスだった』
幽美が手を差し伸べると、エロスは躊躇うことなく握手していた。
「貴方こそ、鼻血を出しながら喋り続けるその根性、ナイスファイトですわ」
「エロス先輩……手に鼻血ついちゃってます」
エロスの手を見て、書也は思わず青ざめる。なぜなら幽美が手を拭き忘れたか、意図的な意地悪か、掌に付いた鼻血がエロスの手にべっとりと付着していた。
「鼻血? このぬるぬるしたのは手汗では……ひいいいっ!? なんで血を拭いていませんの!? 私に対しての嫌がらせですか!?」
エロスも毛虫でも落ちてきたかのような青ざめた表情で、慌ててスカートのポケットからハンカチを取り出して手を拭き、カバンから汗拭きシートを取り出し、完全に血の跡を拭き取った。
『ふふふっ、大丈夫……わたしの血を使って、黒魔術でエロスを呪ったりしない』
幽美はあさっての方向を見て、妙なオーラを出し、不気味に笑みを浮かべる。鼻声で、鼻にティッシュを詰め込んでなかったら、周りが少しは恐怖していたかもしれない。
「なんですの!? その呪う条件が整ったみたいな言い方は!? 呪わないでくださいませ!」
「あー。とりあえずコントはいいから席に戻れお前ら。他の意見がなければ次に進むぞ」
教子先生の指示で皆が何もなかったかのように席に戻っていく。
「次にプロットのプレゼンをしたい奴」
教子先生が言うと、理香がゆっくりと手を上げた。
「私に発表……いや、プレゼンさせてくれないかな先生」
「出たな問題児。私はお前のプロットに関して口出しはしないからな。小学校から道徳をやり直せとだけ言っておく」
教子先生のチベットスナギツネのような目が理香を見つめ続ける。
「つれないですね先生……貴方にもぜひ、批評していただきたい。生徒ばかりではデータいや、意見が足りないと思うのだがね」
「……分かった。皆が私の言いたいことを言ってくれることを願おう。論理屋、前に出てくれ」
理香が前に出て、SSDと刻印されたUSBメモリを教卓のタブレットPCに挿入し、プロジェクターに自身が書いたプロットを映した。
「私が書いたプロットのタイトル名は《異世界ロールプレイング》となっている。コンセプトはRPGゲームの世界を現実にしてみたらという過程で書いている。世界観は……」
理香はそれから淡々とプロットの説明をした。世界観設定、キャラ設定、物語まで分かりやすく説明されたが、全ての設定の倫理観が崩壊しているように思えた。一つ二つ、目論見通りに倫理を外した内容であれば、問題ないが……プロットのほとんどの設定の倫理観が壊れているように思えた。仮にこれが小説化したら、読者はどう思うのだろうか?
「……以上だが、質問はあるかね?」
プロットの説明が終わり、理香が質問を投げかけると、さすがのラノケンメンバーが静まりかえる。倫理に関してはさすがに批評しにくい部分があるのだろう。これが悪の主人公なら問題ないように思えるし、そこに何が問題があるのかと言われれば、それまでのような気がした。
「おい! 頼むぞお前ら! こいつに私が小学生の道徳の授業をやらねばならんのか!?」
教子先生が思わず両手でデスクを叩く。
「それじゃあ……先生! いいですか?」
友美は気持ち悪そうにしながらも、手を上げる。
「おう!? 熱情、なんでも言ってみろ」
「じゃあ、わたしのパソコン画面を映してもらっていいですか?」
「よし、ちゃんとできているな」
友美が編集した理香のプロットにはコメントではなく、文字部分にルビを振り、批評の文章を記載している。
「友美君……君の文字の羅列が多く、批評が多いように思えるね。実に心外だ」
冷たく言っているようだが、理香のその表情は笑っているように思えた。
「じゃあ、初めに最初のページだけど。主人公のタケルが眠っていたら幽体離脱して、勇者になる設定だったかしら? 乗り移った元の人間はどうなるのか気になったんだけど、例えば依り代の人間の意識とか……」
友美の質問に皆が生唾を飲んだ音が聞こえたような気がした。友美はは真っ直ぐな瞳で理香を見つめた後、マウスを操作し、カソールで主人公タケルの設定部分を指し示した。
「ああ、物語に書いてあったと思うがね……王の指示で、勇者の儀式というものが行われる。地球の世界の次元から人間の魂を呼び寄せ、異世界バンゲアの人間に移す魔法なんだがね。勇者の適合者の依り代はタケルのまま、終わりの章でも記載されていたと思うが、元に戻らない。元の人間の人格も魂も消え去っていると仮定している」
理香の問いに友美は真っ直ぐな瞳で見る。
「この勇者の儀式に反対する者はいなかったわけ? 王自身がこの儀式に躊躇う描写とか、もしくは兵士、依り代になる人物の家族が反対するような場面があらすじにも記載されていなかったから、気になったんだけど」
「異世界バンゲアではこの方法で勇者を作り出し、世界を救ってきた実績があった。いわゆる生贄かな? 世界を救う為なら一人の犠牲は仕方ないと思っているんだろうね。あらすじにタケルが元の依り代の両親と出会って、食事するシーンがあっただろ? 両親がタケルに質問して、返答を返すと、涙を流していたというあらすじ部分だ。王に全てを伝えられているし、両親には充分な報酬が得られていた。もちろん反対していたかもしれないが、王の命令は断れない。国民からの同調圧力などもあったかもしれない。いや、もしかしたら人格が消える事など半信半疑で送りだしたかもしれない。そこはご想像にお任せするよ」
静まりかえるラノケンの部室。
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八雲瑠月
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