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この無邪気な言葉を聞いたレイブは、表情を俄(にわ)かに厳しい物にして問い返す。
「ん? 施術後に? 何なの? 俺に何を教われってシパイ兄ちゃんが言っていたってぇ?」
ラマスは相変わらず満面の笑みで答える。
「ほら、叔父様もシパイ師匠のグレーや今のアタシのピンク色と同じで、不自然な紫の魔力に包まれているじゃないですかぁ~? もうっ! んだから動けない師匠に変わってどうかご指南下さいませぇ、師姪(しめい)ラマス、心からお願いしますっ! てへっ♪」
「えっ? 君には見えるの? 俺やギレスラ、それにペトラの周りから離れない紫のヤツ、見えるんだぁ…… そっかぁ、シパイ兄ちゃんはグレーで、君、ラマスはピンクのねぇ~…… ああ、そう言えば薄っすらとピンクだねラマス…… そうかぁ…… 俺やシパイ兄ちゃん、それに君、ラマスは特異体質、って事なのかもしれないねぇ、んで、俺は何を教えれば良いんだい?」
「んだから先程から言っているじゃないですかぁ、特別な力、スキルを教えて欲しいんですよっ!」
「なるほどスキルか…… んで、そのスキルって言うのは一体何なんだい?」
「えっ?」
「んっ?」
ハテナな表情を浮かべたレイブと、まさか知らないとは、何で? 的な疑問符まみれの両者に声を掛けたのは、巨大な雌獅子の凛とした声である。
キャス・パリーグの物であった。
「スキル、ねぇ~…… お嬢ちゃん、確かラマスとか言ったよね? それはどんなに望んだとしても簡単には手に入れられないんじゃないかねぇ、そう思うよ? スキルってーのは神話の時代、遥か遠く過ぎ去った世界で神々、悪魔達が行使していた超常の力を指してそう呼んでいたんだよ…… 御伽噺(おとぎばなし)の世界の夢物語さね、我々は生き難い時代に生まれて抗いながら日々を過ごしているだろう? だから、往々にして楽な手段を求めちまってさ、時に実現不可能な夢想に思いを馳せてしまうんだよねぇ…… 判るよラマス、無理も無いさっ! でもね、こんな苦しい時代だからこそ、現実に向き合わなければいけないんじゃないのかね? 夢のように便利なスキルじゃなくて今出来る事を一歩一歩習得して世の中の役に立つ! そんな人間や魔獣、竜こそが求められているんじゃないかい? そうだろう?」
この言葉にレイブは深い頷きだけしか返す事は出来なかった。
流石、ここバストロ学院の筆頭教授にして副学院長の見識、そう思えたからである。
懐かしくも未だ恋しい大猪ヴノの娘にして、あの日、岩山の岩窟で死に掛けてしまっていたレイブとスリーマンセルを救出してくれた才女の言葉は、その内容以上に彼の心に染み渡っていたのである。
そりゃそうだろう。
不意に襲われた魔力災害、というより青黒い襲撃者によって、岩窟の奥の奥、誰も知らない通路の先の隠れ家に逃げ込んだレイブは自らの左肩から先を失ってしまっていた。
幼さゆえの未熟さからとは言え、彼を助けようとしたギレスラもペトラも揃って瀕死となり、後は只、死の訪れを待つばかりの状況に曝されてしまったのである。