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キャス・パリーグが、ハタンガ周囲の魔力の高ぶり、迸(ほとばし)りに危惧を抱き、育ての親であるヴノを案じて駆けつけたのは四日後の事であった。
既知(きち)であった数箇所の隠れ家を訪ねた後で訪れた岩山の最奥の更に奥、自身も幼き頃に隠れた事のある通路は、大きく広げられていて、巨大に成長したキャス・パリーグでも容易に通り抜けられる様になっていたのだ。
――――ここにはどうやっても削れない異常な硬さの鉱物が有った筈なんだけど…… バストロかジグエラが拡張したのかしら? はてな?
そんな風に思いながら通り過ぎた通路の先で見つけた物は。
三者重なり合ってスヤスヤと穏やかな寝息を立てていたレイブ、ギレスラ、ペトラだったのである。
慌てて状態を確かめたキャス・パリーグは安堵の溜息を吐いた。
この幼い三者は揃って健康そのものに見えたからである。
自分に従うロシアンデスマンのカゲトの手を借りて背中に乗せると、風のような速度でこの地、グイトゥまで連れ帰ったのであった。
しかし乍(ながら)、あの日失った筈の左腕と、まだ幼いギレスラが引き千切ってしまった再生不可能な筈の鱗と、ガリガリにやせ細っていたペトラの体が、発見された時、どう言う訳か元のままになっていた事に関しては、不思議だけどそう言うものなのかな? そんな風に考える事にして思考を停止真っ最中にしていたのである。
キャス・パリーグは言葉を続ける。
「だからさラマス、不確かな伝説に基づく力じゃなくてね、確実な力、実力をこの学院で覚えて行って頂戴な! 判ったでしょう、魔術師として恥ずかしく無い技術と戦闘術、ここで覚えるのはその二つだけなのよっ?」
「な、なるほど、ですっ、流石は副学院長、でっすっ!」
役立たずで最早魔術師でもなくなってしまったレイブが思わず口にする。
それ位、副学院長であるキャス・パリーグの言葉が的を射ていた、そう言う事ではなかろうか?
満足気に頷きあうキャスとレイブであったが、空気が読めない性質なのだろうか、少女ラマスが再び声を上げるのであった。
しかも、可愛らしいその顔、主に頬の部分をパンパンに膨らませて不満を露(あらわ)にしながらである、不敬の極み、なのではなかろうか?
「むうぅ! んだけどアタシは立派で凄い魔術師だったシパイ師匠がぁ、グレーのオーラに包まれちゃってから魔術師じゃなくなってしまった、その姿をこの目で見てきて…… んで、んで、ぐすっ! その後スキルに目覚めて強固なバリアでみんなを助け始めたのを見て来たんだからあぁっ! そんで、そんでぇ、それまでどうやっても魔術師の技を習得できなかったアタシに言ってくれたんだもんっ!」
少し冷静な顔を浮かべたレイブが言葉の先を促すのである。
「ん? シパイ兄ちゃんが? 何、君に何て言ったってのさ?」
「里人の皆と違って魔法が使えないアタシが、今後生きていくためには魔術師になるしか無いでしょ…… でも、師匠が魔解施術をしてくれたのにアタシってば無垢の魔力が使えなかったから、その道も閉ざされちゃって…… グスッ、やれる事が無いから師匠がバリアを張り続けていられるようにお世話をし続ける位しか出来なくて、グスゥッ! 師匠も喜んでいてくれたと思うんだけど…… 出来る事が少ないアタシの事を哀れに思ったのかな? グスッ、七本目をイってやった時に、急に言い出したんだ…… レイブ叔父様を訪ねて一緒に居る魔術師の人達からもう一度ちゃんとした魔解施術を受けろって、それでも駄目だったらレイブ叔父様に師事してスキルを発現させるんだ、ってぇ! グ、グスッゥ! それが出来るまで帰ったら駄目だ、絶対にって言われてぇっ! うううっ、ゴ、ゴホンゴホンッ、グスゥッ」