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返品不可
確認画面は、
いつも通りだった。
規約。
同意。
確定。
画面を閉じたあとも、
指が宙に残る。
玄関に腰を下ろし、
靴を履いたまま動かない。
薄い茶色のコートは皺がつき、
裾が床に触れている。
首元の布は少しよれて、
鏡を見ないまま出てきた跡が残っている。
指先には小さな切り傷があり、
そこだけ赤みが濃い。
分かっていた。
取り消せない。
戻せない。
買う前から、
何度も書いてあった。
それでも、
重さは後から来る。
歩き出してから。
話してから。
一度、黙ったあと。
付けた言葉が、
自然に前へ出る。
止めようとする前に、
選択が終わっている。
楽だ。
速い。
迷わない。
その分だけ、
考える余地がない。
夜になり、
コートを脱ぐ。
ハンガーに掛ける動作が、
少しだけ遅れる。
もし、
あのとき、
選ばなかったら。
考えた瞬間、
もう遅いと分かる。
返品不可、
という文字は、
画面にはもう出ない。
代わりに、
同じ言葉が、
内側で何度も浮かぶ。
取り消せないと
知っていたはずの選択が、
今になって、
いちばん重い。