テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

軍師の嫁取り

一覧ページ

「軍師の嫁取り」のメインビジュアル

軍師の嫁取り

41 - 戦の前には誤算あり10

♥

15

2023年11月13日

シェアするシェアする
報告する


ほのかではあるが、甘い花のような、それでいて、妖艶な香りが、孔明の鼻をくすぐる。


どこからか流れてくる、女人達の楽しげなささやき声が、孔明の耳をくすぐる。


──桃源郷。


ふと、そんな言葉が、孔明の脳裏に浮かんだ。


「あっ、旦那様が、お目覚めですよ!」


今度は、聞き覚えのある、幼い声がした。


ん?


孔明は、目を瞬《しばた》く。


薄布が垂れ下がり、揺らいでいた。


横になる寝台に、取り付けられている天蓋《てんがい》のようだ。そして、黒檀らしき支柱が見える。


これは、どうしたことだと、孔明は、惑う。


まるで、違った。自分の寝室には無い、裕福な女人の部屋に備わるモノとしか言い様の無い情景だった。


「旦那様、お水を、飲まれますか?」


再び、幼い声がする。


そして、孔明は、やっと、理解した。


そうだ、自分は、黄夫人の実家へ来ているのだ。そして、ここは、黄夫人の、部屋なのだと。


聞き覚えのある声は、童子のもの。


眠っていた、自分に付き添ってくれていたのだろうか。


「あー、奥様は、お休みになって、と、言うか、湯船につかり、お肌を磨き、髪も洗って、爪も整え、とにかく、磨きに磨いております」


「……なんだね?それは?」


「うーんと、つまりですね、実家で、羽を伸ばしていると」


「はあ、そうなのか」


まあ、よかろう、と、孔明は思う。


そもそもは、このように、芳しく香る洗練された部屋に住む方なのだ。それを、あばら屋に住まわせ、挙げ句、自分が熱を出し、手を煩わせてしまった。


「あっ、そうだ、旦那様、汗はおかきになっていませんか?着替えた方がいいと思います」


「うん?ああ、まあ、そうだな。で、童子よ、お前は、羽を伸ばさないのかい?」


え?と、童子は、不思議そうな顔をする。


「だって、御屋敷にいられるだけで、十分楽しめますから。均様にもおいでいただけばよかったなぁー。あちらの、家とは、違って、種々なものがありますからねぇ」


「うん、確かに、いるだけで、楽しめる。均の奴に、見せたら、腰を抜かすものばかりだ」


ですよねー、と、孔明も、童子も、和やかな時を過ごしていたのだが……。


その、均はといえば、まさに、腰を抜かしそうな、思いをしていた。


「で、ですから、兄は、留守でっ!!」


「なにっ!いつ来たら、会えるのじゃ!」


「る、留守な、ものは、仕方ない、じゃないですか!」


と、グリグリ目玉の男、こと、張飛に向かって、精一杯の啖呵を切っていた。


朝の畑仕事から、戻ってみると、劉備、関羽、張飛の三人が、門前で仁王立っていた。


正しくは、そう、みえたのだが、均は、とっさに、手にする鍬《くわ》を、握りしめた。


童子が、鎌を振り回して、追い返した様に、何事かあれば、自分は、鍬を振り回す。と、心に誓うが、いかんせん、やはり、相手の勢いと迫力に負けてしまう。

この作品はいかがでしたか?

15

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚