テラーノベル
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一方桜達は、大阪北は梅田からミナミの難波までを南北に貫く「御堂筋線」の大渋滞にはまっていた
先ほどから見事なまでにびくとも動かないこの道、前を見ても車、横を見ても車、バックミラーを見ても車だらけだ、大阪中の車をここに集めることに成功したかのような壮大な六車線の渋滞は、ここ御堂筋の名物である
。 .:・.。. .。.:・
「はぁ~・・・動かないな・・・」
正宗が大きくため息をついて行った
「おおさかぁ♪~雨ふるぅ~♪御堂筋ぃ~♪」
「あ~よいしょ!」
「誰じゃ歌わんでくれ!」
「だってぇ~暇なんですもの」
特にジンの会社がある心斎橋付近では、信号待ちの車列が何百メートルも連なり、何回信号が変わってもなかなか進まない
イチョウ並木の緑が美しいはずの景色も、今日はただの鉄の道と排気ガスの海にしか見えないと桜は思っていた、この道を意気揚々と営業先まで歩いていたのがもう遠い昔のように思える
クラクションが遠くで鳴り響き、エアコンの効いた車内ですら息苦しく感じるほどの、典型的なノロノロ運転の大阪の「動かない御堂筋」渋滞にスッポリハマってしまった
「キャーーー!道頓堀よ!道頓堀!」
みや江が窓に顔を貼り付けた、鼻先がガラスで潰れるほどの至近距離で車窓の向こうに広がる、あの有名なグリコのネオンを食い入るように見つめている
「うっわぁ~!すっごい人だな!どこから湧いてくるんだこの人たち!」
「あの橋の上!ありんこみたいな人だかりだな」
誠一郎が身を乗り出す、肩越しに外を覗こうとして、シートベルトに引き戻された
「ハイカラな町じゃのう~」
助手席でずっと腕を組んでいた米吉がしみじみとそうつぶやいた、その声には生まれて初めてテレビを見た老人のような純粋な驚きが滲んでいた
ホホホッ
「米吉さん、ハイカラなんて死語よ」
「しっかし!動かねーな、この渋滞!」
「ねぇ~!桜ちゃん!本当にジンさんとは偽装婚だったのぉ~?」
みや江がくるりと後ろを向いて桜に聞く、その顔には爛々とした好奇心が輝いていた
「ちょっと!いくらさっちゃんでも言いたくないこともあるじゃない?」
「そうよぉ~!みや江さん!」
「そうじゃ!そうじゃ!」
「でも本当に?ちょっとはお二人さんいい感じなことはなかったの?」
「あらやだ!すず江さんったら」
「だぁってぇ~!聞きたいじゃない?」
「そりゃそうだけどぉ~」
「実際の所どうなんじゃ?お前さんがジンさんを好いとるのはわかったが、ジンさんから一度もそれらしいこと言われなかったのか?」
車内がシン・・・となった、みや江とすず江はちょっとだけ肩をすくめたが目は桜から離さなかった、桜は少しの間窓の外を見ていた、道頓堀川が光を弾いてきらきらと輝いていた
「うん・・・偽装婚を持ちかけたのは確かに私からなの、私は入社した時からずっと・・・ジンさんに恋をしていたから・・彼が困っているのが見逃せなかったの」
はぁ~(はぁと)
「健気ねぇ~」
「問題はジンさんよね」
「でも私達が見たところ、あなた達は本当にお似合いだったわ」
「俺もそう思うぞ、でないとあんなに荒波祭りで真剣にやりあわないよ!」
誠一郎の言葉にみんな深く頷いた、あの祭りのことはその場にいた全員の胸に、それぞれの形で刻まれていた
「そうよねぇ~!私も絶対さっちゃんの事がジンさんは好きだと思うんだけどね」
「ねぇ~!一回でもジンさんの口からそれらしいこと言われなかったの?」
「結婚したいとか、さっちゃんのこと好きだとか」
矢継ぎ早に言葉が飛んでくる、桜はその言葉の雨を受けながらもごもごと口を動かした
「そんな・・・ジンさんに好きだなんて言われたことないわ、私の一方的な片思いよ」
それから、桜は少し眉を寄せて思い出を手繰り寄せるように続けた、記憶の中のあの人を語る声は本人も気づかないうちに、少し柔らかくなっていた
「とにかくジンさんって変なところがあるのよ!カフェオレも甘いのが好きだし、思ってることあんまり言わないし、月がきれいな夜は何度も『月が綺麗ですね』ってLINE打ってくるし・・・」
その瞬間だった、みや江、すず江がピクリとした、まるで同じ電流が二人の間を走ったように、ぴったりと示し合わせたわけでもないのに桜の言葉に反応した
「ちょっと待って!さっちゃん!今のは聞き捨てならないわ!」
「え?」
桜が目をぱちくりさせる
「ジンさんって・・・さっちゃんに『月が綺麗ですね』って・・・言ったの?」
みや江の問いかけにあのフネでさえピクリと片眉を上げて桜を見た、桜は答えた
「ええ・・・もう何度も何度も、月が綺麗な晩はLINEメッセージをよこしてきたわ、まるでNASAの回し者かと思ったぐらいよ」
キャー――――ッ!!
「ジンさんってさすが韓国人ね!」
「なんてロマンティックー!韓ドラの世界よぉ~」
「それ!俺も知ってるぞ!」
みや江すず江が奇声を発して、誠一郎の目も輝きだす、そして松吉が照れながらおでこをハンカチで拭く
「いやはや・・・夏目漱石かぁ~婿殿は思ったよりロマンティックな男じゃな」
みんなが何かを理解して口々に感嘆しているのに、桜一人だけが理解できずに完全に取り残されている、彼女はいらだって言った
「な・・・なによ!ジンさんが私に『月が綺麗ですね』って言ったのがそんなに変なの?どういう意味よ!」
「それはねさっちゃん(はぁと)」
フフフとみや江すず江がおめでとうと桜の両手を握り締めてうんうん頷く、その手は温かく祝福の熱を帯びていた、みや江が言った
「『月が綺麗ですね』って言葉は韓ドラで有名になった夏目漱石の逸話でぇ」
フネもチラリと桜を見ていた、続きをすず江が拾った
「『あなたを愛している』って意味よぉ~♪」
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コメント
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キャーーーー😍😍 桜ちゃんが意味を知ったー🙌 いけー桜ちゃん!ジンさんも同じ気持ちよ😍 渋滞から早く抜け出して会いに行ってー!!
キャーーーッッ🤣🤣🤣 やっと!!! このタイミングであの言葉の意味を知ることになるとはね😁😁😁 楽しみだー🤩 待ってろジンさん💓