テラーノベル
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ジンさんが・・・私を愛している?
桜は信じられない気持ちでみや江すず江の言葉を聞いた
「そんな・・・月と愛の何の関係が・・・」
ふぅ~
「鈍感な娘で婿殿もかわいそうじゃのう~」
松吉と米吉が笑ってる
ジンさんが・・・あのジンさんが私を・・・
桜はいてもたってもいられず、大渋滞真っ只中の山田旅館のバンのドアを一気に開けた
「あたし!ここで降りて走っていく!」
「あっちょっと!さっちゃん!!」
「桜っ!」
桜はバンから飛び出し、御堂筋を走り出した
「パパ達は後でゆっくり来て!」
桜はそうハッキリと言った、その声に迷いは無く、さっきまで両目を赤くして泣いていた彼女が、今は別人のような顔をしていた、ここは淡路島と違う、懐かしい初夏の夕風が、桜の頬に、髪に一気に流れ込んできた
夕暮れの御堂筋は茜色と群青の間に染まり、大勢の人が行きかっていた、桜は一度だけ振り返って正宗が運転するバンをチラリとしてそれから全速力で走り出した
御堂筋遊歩道の銀杏並木は多くのLEDライトに飾られ、夕暮れの光の中では一本一本の輪郭がぼやけ、まるで光の海の中を走っている感覚になる
桜は煌々と輝くショーウィンドウの向こうで、モノグラムのバッグが照明に照らされているハイブランドショップ『ルイ・ヴィトン』の前を走り抜けていった
ドアから出てきた買い物帰りらしい外国人観光客の夫婦が、横切って走り去っていく桜を不思議そうに見つめていた、二人とも肩に青紐でオレンジ色の紙袋をかけている
シャネルのブティックが、左手に現れた、そこのショーウィンドーにも、黒と白のクラシックなマトラッセファサードが夕陽を受けて柔らかく輝いていた
美しい宝石のようなシャネルのジャケットを着て、能面真っ白でポーズをとっているマネキンの前を、また桜が勢いよく駆け抜けて行った
ジンさん・・・
.:・.。. .。.:・
息が上がり始めていたが、フラットのローファーが、御堂筋の歩道を叩く音が、自分の鼓動と重なって聞こえた
あのしつこいくらいに自分に送ってきていた『月が綺麗ですね』のメッセージにそんな意味がるなんて・・・
―ああっ!私ってバカ!あの時彼に何て返した?―
次に心斎橋のティファニーが夕暮れの光の中に現れた、ティファニー・グリーンと呼ばれるエメラルド色の宇宙船のような店舗が、御堂筋にひときわ凛と輝いていた
ショーウィンドーの中では、スポットライトを浴びた台座の上に閃光を放っている宝石達が、歩く人を楽しませている、桜の足が、ほんの一瞬だけ緩んだ
ジンさん・・・
.:・.。. .。.:・
偽装婚を契約してすぐに彼にここで指輪をプレゼントされた・・・
彼は桜の左手をそっと取り、大きな指輪でないといけないと主張した、あの時感じた彼の熱い眼差し・・・二人の間に流れた熱・・・今でも左手の薬指にはその指輪は輝いている、あれから桜は一日とて外したことはなかった、聞きたいことが山ほどある
―まさかこの指輪は本物なの?ねぇ!ジンさん!教えて!―
.:・.。. .。.:・
また桜は全速力で走り出した、夕風が髪を乱し、目の端に熱いものが込み上げてきたが、桜は構わず走った
次にハマーバックスの温かい店舗の光が夕暮れの歩道に浮かび上がってきた、コーヒーの香りが夕風に乗って一瞬だけ桜の鼻をかすめた
ガラス張りの店内では、仕事帰りらしいスーツ姿の男女がラップトップを開きながらカップを傾けていた
夕方のハマーバックスは、街の喧騒の中にあって、ひときわ穏やかな時間が流れているようだった、その前を、桜が全速力で駆け抜けようとした、まさにその瞬間だった
「ええ?サクちゃん?!」
ガラスの自動ドアが勢いよく開いて、白いシャツに緑のエプロン姿の学が飛び出してきた、片手にミルクフォーマーを持ったまま
「サクちゃん!ちょ、ちょっと待って!!」
学の声が御堂筋に響いた、しかし桜は一瞬だけ振り返りながら学に向かって大きく手を振った
「学君!バイバーイ!今度奈々とお茶しに行くねーー!」
「え、なんで走ってんの?どこ行くん??ちょっと!サクちゃぁ~~ん!」
学は緑のエプロンを翻したまま呆然と走り去る桜の後ろ姿を見送った
行き交う人々が不思議そうに全力疾走する桜を見ている、夕暮れの御堂筋の人波の中に、桜の後ろ姿はみるみる小さくなっていった
ジンさん・・・ジンさん・・・行かないで!私まだあなたに何も告げていない!私も愛しているのよ!
.:・.。. .。.:・
ムキーーーー!!
「って『月が綺麗ですね』が『愛している』なんて分かるわけないじゃないのよ!ジンのバカ――――!ッッ」
と叫びながら、走っていく桜だった
.:・.。
. .。.:・
コメント
2件
ジンさんへの想いを胸に桜ちゃん走れー💨まだ間に合うはず🙏
大好きな街✨️ ジンさんを思いながら駆け抜ける桜ちゃんの息遣いが聞こえてくるよ😭💓どうか間に合って🙏