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────200X年、某日。
「…………此処、だな」
目の前には、まるで遊園地のようなポップな佇まいの……しかし何処か不気味さに包まれた、巨大な廃工場。
此処はかつて一世を風靡した大手玩具メーカー、Playtime社の本社工場。今から数年前の199X年に起こった、謎の「集団失踪事件」──100人以上もいた従業員が、まるで神隠しのごとく、職場から忽然と姿を消してしまったのだ──があってから、Playtime社は事実上の倒産扱いとなり、巨大な廃墟だけが、こうして残っているのだ。
「…………」
厳重に封鎖された入口の前に立つ彼は、この会社の元従業員。彼はある目的のために、此処を訪れたのだ────
*
────それは、今から3日前のことだった。
「……何だ、これは」
仕事(彼は現在スポーツジムで、インストラクターをしているのだ)から帰って、郵便受けを開けると……入っていたのは、一つの小包。
取り出して、送り主の名前を確認し……そして、愕然とした。
「っ……どう、して」
何故なら送り主は……「集団失踪事件」で行方不明になった、Playtime社の同僚であり……そしてかつて修行を共にした、義理の兄だったのだから。
「どうしたの、ケン?」
「っユリア……何でも、無い」
家に入りリビングへ向かうと、其処には椅子に座り、新たな命を秘めた丸い腹を撫でる、妻の姿。彼女には非常に悪いが……今は届いた郵便物が大事だ。
自室に入り、手紙の封を切る。小包の中身は、1本のVHSと……確かに義兄からの手紙。筆跡からして、間違いない。
便箋には、こう綴られていた。
愛する弟 ケンシロウへ
あの日を境に、仲間たちは何処かへ消えちまったと……誰もがそう思っている。だが安心してくれ。俺たちはまだ、此処にいる。
そこでだ。運良く無事だったお前に、一つ頼み事があるんだ。
『花』を探せ。俺から言えるのは、それだけだ。
本当はお前を巻き込みたくなかった。だけど、これは……お前にしか出来ねぇことなんだ。
すまねぇな。どうか頼むぜ。
お前の兄貴 ジャギより
「ジャギ…………兄さん…………」
彼は信じられないでいた。確かに義兄──ジャギは、あの日から帰ってこなくなってしまった。どれだけ警察が現地を捜索しても、見つからなかった。それなのに……どうして今になって、本人から手紙が?
「…………」
彼はふと、VHSに視線を移した。もしかしたら、収録された映像に何かしらの手がかりがあるかもしれない。
VHSを手に取り、近くのビデオデッキに入れる。そして、ブラウン管のモニターに映し出されたのは…………大昔のPlaytime社のCM。初期に大ヒットしたトーキー人形、『ポピー・プレイタイム』の宣伝と、本社工場見学のお知らせ…………だったのだが。
「…………?」
最後に映し出された。謎の映像。元従業員の自分でも、行ったことの無い場所。恐らく感じからして、本社工場内だろうが…………橋の向こうに巨大なケシの花の絵が描かれた、コンクリートの壁がある。
「花、ということは…………手紙の文面を読むに、この場所を目指せということなのか…………?」
未だに理解が追いつかないが…………やらねばならないのだろう。
────否、やるべきなのだ。
彼は思った。これは……偶然あの日を免れた俺に課せられた、使命なのだと。
行かなければ。必ず行かなければ、あの場所に。あの日に一体、本当は何があったのかを…………正しく知らねばならないのだ。いなくなった仲間達と、そして────義兄・ジャギのために。
彼は──ケンシロウは、立ち上がった。その黒い瞳に、強い決意を滲ませながら。
*
「…………兄、さん」
ケンシロウは、シャツのポケットから1枚の写真を取り出した。それはPlaytime社の入社初日に、別の同僚が撮ってくれた、ジャギと自分のツーショット。
今の自分には、守るべき存在がいる。最愛の妻・ユリアと、近々生まれて来る子供と…………だけど、ジャギ兄さんのことは守れなかった。
だからせめて…………真実を知って、必ず生きて帰りたい。生きて帰るのだ。絶対に。
「─────あたぁ!!」
ケンシロウは写真をポケットに仕舞うと、掛け声とともに、入り口前のバリケードを思いっきり蹴破った。そして深呼吸を一つして、建物の扉を開けた。
元Playtime社の従業員であり、第64代北斗神拳伝承者──ケンシロウの、恐怖の大冒険が始まった。