「浩太、先に食べてていいからね」
キッチンで何やら作り出す梓の後姿に思わずため息が漏れる。
やっぱり連れてこなければよかった。
梓を部屋に入れて数分、後悔の念の苛まれていた。
梓が謙虚だったのも束の間の事で、慣れた感じでキッチンを使いだした。
そして目の前のテーブルには前に梓が買ってきた色違いの箸とコップが並べられている。
これを捨てなかったのが、そもそもの原因かもしれない。
別れても梓のものを捨てなかったことに特に理由なんてなかった。
だから俺にとっては単なる食器で、別れたから捨てるという概念がなかったのだ。
でもお揃いの箸とコップが食器棚に残っているを見つけた梓は明らかに嬉しそうで、俺は初めて自分が犯してしまった過ちに気づかされたのだった。
「おでんがあるから何も作らなくていいって」
なかなかキッチンから戻ってこない梓に声を掛ける。
「でも、もう出来るから」
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