テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
その頃、受付の女性は、青ざめた表情で冥府の館の入り口へ向かって駆け出していた。
息を切らしながら必死に呟く。
「まずい!まずい!まずい!まずい!
私も逃げなきゃ!警察が来たら人生終わる!」
自分自身に言い聞かせるように首を振った。
「こんな詐欺に加担してたなんてバレたら
人生パーじゃない!早く逃げなきゃ!」
その背中へ、幼い声が静かに届く。
「逃げちゃダメだよ」
女性が足を止める。
目の前には、いつの間に現れたのか分からない、小さな少女、佳苗が立っていた。
「ぎゃあぁあぁあぁあぁあ!」
突然現れた佳苗に驚き、女性はその場へ尻もちをつく。
佳苗は悲しげな瞳で女性を見つめた。
「お姉ちゃんも悪い人なんでしょ?」
女性は顔をしかめ、声を荒らげる。
「何なのよアンタは!」
佳苗は少しも怯えない。
「だったら逃げちゃダメだよ」
女性は苛立ちをぶつけるように怒鳴った。
「アンタみたいな子供に何が分かるって言うのよ!」
佳苗は静かに首を横へ振る。
「お金を騙し取るなんて絶対にダメだよ」
女性は言葉を失う。
佳苗は続けた。
「それが理由で殺されちゃう人だって居るんだよ?」
女性は唇を強く噛み締め、その場に立ち尽くした。
佳苗は遠くを見るような目で呟く。
「私のお母さんも殺されちゃって」
小さな胸に手を当てる。
「私も死んじゃった・・」
女性の顔から血の気が引いていく。
「何よ・・死んじゃったって・・・」
佳苗は優しく微笑みながらも、その瞳はどこか寂しかった。
「だから・・・ダメだよ」
そして、そっと女性へ手を伸ばす。
「お姉ちゃん」
女性の肩が震え始めた。
「う・・うぅ・・・」
とうとう堪えきれず、その場へ座り込み、涙を流す。
「どこで道を間違えたんだろ・・私」
嗚咽混じりの声が静かに溢れる。
その時だった。
入り口の扉が開き、数人の警察官が足早に中へ入ってくる。
信愛からの通報を受けて駆け付けた警察だった。
一人の警察官が女性へ歩み寄る。
「霊貴冥孤の関係者ですね?」
女性は涙を拭うこともできず、小さく頷いた。
「は、はい・・・」
警察官は静かに告げる。
「貴方を詐欺幇助の罪で逮捕します」
そう言って女性の両手へ手錠を掛けた。
佳苗は警察官を見上げる。
「警察のお兄さん」
警察官は優しくしゃがみ込む。
「お嬢ちゃん・・どうしたの?」
佳苗は霊視の間を指差した。
「あの部屋に霊貴って人が居るよ」
警察官は柔らかく微笑んだ。
「ありがとうね、お嬢ちゃん」
そう言って佳苗の頭を優しく撫でると、部下たちを連れて霊視の間へ向かっていった。
◇ ◇ ◇
霊視の間では、千歳の力によって身動きの取れない霊貴が苦しそうに呻いていた。
警察官がその前へ立つ。
「霊貴冥孤だな?」
冥孤は観念したように肩を落とした。
「は、はい・・・」
警察官は毅然とした口調で告げる。
「貴方を詐欺並びに殺人未遂及び
銃刀法違反の容疑で逮捕します」
手錠を取り出しながら続ける。
「大人しく着いてきてください」
霊貴はゆっくりと目を閉じた。
「分かりました・・・」
やがて千歳の拘束が解かれ、警察官たちは霊貴の身柄を確保する。
こうして霊貴は警察に逮捕され、そのまま警察署へと移送されていった。
◇ ◇ ◇
警察官は信愛へ軽く頭を下げた。
「通報、感謝いたします」
信愛は少し俯き、控えめに首を振る。
「い、いえ・・・」
警察官は真剣な表情で信愛を見つめた。
「だが高校生が無茶したらダメだ」
その言葉に、信愛は申し訳なさそうに肩をすぼめる。
「す、すいません・・・」
すると、美月が一歩前へ出た。
「いいえ、彼女たちは悪くないんです」
警察官が視線を向けると、美月は静かに続けた。
「担任である私の責任です」
その毅然とした口調には、生徒を守ろうとする教師としての覚悟が滲んでいた。
警察官は小さく息をつき、穏やかな声で言う。
「申し訳ありませんが、署までご同行願えますか?」
警察官は信愛たちにも目を向ける。
「簡単な事情聴取をしたいので」
信愛は緊張した面持ちで返事をする。
「はい・・・わかりました」
こうして事件に関わった全員は警察署へ向かうこととなった。
コメント
1件
×××さん、今回も読みました。 佳苗ちゃんの「私も死んじゃった」って台詞、ゾッとしたけどどこか優しくて、胸がぎゅっとなりました。子供なのに悪いことを「ダメ」ってちゃんと言える強さが、かえって切ない……。 受付の女性が涙しながら「どこで道を間違えたんだろ」って呟くところ、人間って脆いなって思いました。でも、逃げる前にちゃんと向き合おうとした瞬間があって、救いを感じます。 千歳さんの拘束シーンも、美月先生の「私の責任です」も、キャラ一人ひとりの覚悟が伝わってきて、じんわりきました。 最後の「署へご同行願えますか」で終わる余韻も、この作品らしい静かな重みがあって好きです。次話も楽しみにしてます🌙