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るね詰め

1 - 熱中症 🎈

♥

17

2025年08月21日

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📍類side


夏の終わり。
だと言うのに太陽は容赦なく、体育館の空気を熱気で満たしていた。

外よりはマシだと思っていたけれど、全然そんなことはない。

動き続けるうちに、 じわじわと体が熱に溶かされていくような感覚に変わっていく。


これは、まずい。

汗が止まらない。視界がにじんで、立っているのが少しだけ不安定になる。

けれど、それを悟られるわけにはいかなかった。特に──寧々、には。


「類、ちゃんと水分とってる?」


その声に、僕はわずかに肩を揺らす。

すぐ隣に立っていたのは、寧々。

小さい体で、じっとこちらを見上げてくる彼女の目には、

隠そうとした“異変”が映ってしまっていた。


「大丈夫、ちょっと動きすぎただけだよ。」


できるだけ、軽い口調で返す。

でも、その返しが通用しない相手だということは、僕が一番よく知っていた。


「ほんとに大丈夫? 顔、赤いし……。」


やっぱり、バレてるか。

強がっても無駄だと、どこかで思っていた。

けど、僕は、みんなの前では常に完璧な神代類でありたい。

それに倒れるなんて情けないし、心配させたくない。


「これ、体調悪そうと思って買ってきた。 スポーツドリンク。」

「え、ありがとう。」


寧々が差し出したスポーツドリンクを受け取る。

冷たい感覚が、喉を通っていく。少しだけ、頭がすっきりした。

…幼いころからずっとそばにいて、いろんな僕を知ってくれている人。

だからこそ、弱い僕は見られたくなかった。


いや、知られたくなかった。


授業が終わって、みんなが更衣室に向かうなか、

僕は少し距離を置いて体育館の端を歩いていた。

足が重い。呼吸が浅くて、心臓の音が耳に響く。


「類!」


ああ、来てしまった。

寧々が小さな足音を立てて駆け寄ってくる。


「まだ更衣室行ってないの? …てか顔色っ…!もっと悪くなってる……!」


やっぱり、隠しきれなかったか。


「大丈夫だよ……少し休めば、回復するさ。」


それでも僕は、平気なフリをした。

いつも通りの神代類でいようとした。

でも、寧々の手が僕の腕を掴んだ瞬間、

なぜだか心の奥がざわついた。


「大丈夫大丈夫、って… 多分、熱中症だよ。体育館、すごい暑かったもん。

保健室、行こう。わたしが支えるから。」


「本当に大丈夫だから。それより寧々は、早く授業に……」


…駄目だ。足が、ふっと力を失う。

次の瞬間、僕の体は自然と、寧々の小さな肩にもたれかかっていた。


「わっ……! ちょ、ちょっと類!?」


慌てる声が耳に届く。

でも、彼女の腕は離れなかった。

細くて頼りないのに、しっかりと僕を支えてくれている。


「ごめん……ちょっとだけ、頼ってもいいかい…?」


ようやく、素直にそう言えた。


「……うん。」


保健室にたどり着いた時、僕はもう、ほとんど足に力が入らなかった。

寧々が僕を寝かせてくれる。

寧々の手が、優しく僕の背中を支えて、ゆっくりとベッドに横たえられる。


このまま、眠ってしまいそうだ……。

静かな部屋。冷房の冷たい風が、火照った肌に心地いい。

寧々が僕を寝かせてくれて、隣に座った。

そこにいる寧々は、むすっとした顔をしている。


「……だから無理しないでって言ったのに。」


寧々の声は少しだけ怒っていた。

でもその奥には確かに優しさがあった。


「……わかってたんだけどね、僕も。」

「はい、さっきの。飲んで。」


強がっても、意味がない。

寧々の前では、何を隠しても無駄なのだ。


「……ありがとう、寧々。」


そう呟いた僕に、寧々はスポーツドリンクを差し出してくれた。

少しだけ身体を起こして、スポーツドリンクを飲む。


「次からは、ちゃんと言ってよね。」

「……うん。」


人に弱みを隠す性分の僕の異変に、すぐ気づいてくれることが嬉しかった。

安心感に包まれて、そのまま、まぶたが重くなる。
そして、最後に聞こえたのは、寧々の静かなつぶやきだった。


「……もっと頼ってもいいんだよ。わたし、ほんとにびっくりしたんだから。」


──ごめんね。ありがとう。
次は、最初から頼ることができたらいいな。



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