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コメント
1件
いやあ、今泉さんの登場シーン、痺れましたね……雨の中でしゃがみ込んで指輪を探す亜紀さんの姿と、「探し物はこれですか?」っていう静かな声のギャップが鮮やかで。しかも彼、ちゃんと亜紀さんのイニシャルまで見抜いて持ってきてるんですよね。どうやって知ったんだろう……この「どうして分かったの?」という疑問が読者の好奇心を絶妙にくすぐる構造、とても巧いなと。雨音と涙と鼓動が混ざり合うラストシーン、続きが気になって仕方ないです。
……
こっちから正面衝突したんだから……
どう考えても、こっち側にしか転がらないよな……。
あ、でも壁にぶつかってたとしたら、あっちの植え込みの方へ転がる可能性もあるかも。
雨音にかき消されそうな小さな独り言を漏らしながら、濡れた地面へ視線を這わせる。
傍から見れば、間違いなく不審者そのものだ。
雨降りで良かったのかも……。
傘をできるだけ前へ傾け、顔を隠した。
病院を出た時より雨脚は弱まっていたものの、降り続いた雨はあちこちのアスファルトに小さな水の流れや水たまりを作り、視界を遮っている。
水たまりの中に沈んでるのかな……
背を丸めてしゃがみ込み、水たまりへ指を入れて地面をなぞる。
土に埋もれちゃったなんてこともある?
植え込みへ視線を移し、泥だらけの煙草の吸い殻にさえ一瞬目を輝かせ――
そして、落胆する。
駄目だ……
本当に見つからない。
地面を見つめたまま立ち尽くした。
ふと視線を移すと、細長い側溝の網へ雨水が音を立てて流れ込んでいる。
力の抜けた足取りで、側溝へ近づいた。
もしかして、ここまで転がってきて……
この中に落ちてたら……
完全にアウトだ……。
足元を流れる雨水を見つめ、唇をきゅっと噛む。
視線の先には、泥だらけになったパンプスと、足首に張り付く濡れたパンツの裾。
冷え切った手を広げれば、指先には砂の粒がこびり付いていた。
「……」
気づけば、ぼんやりと見つめていた手のひらが涙で滲んでいた。
指輪が見つからないから?
泥だらけになった自分が情けないから?
……嘘。
こんなことで泣くなんて……。
自分でも分からない。
止められない。
行き場のない感情が、胸の奥から次々と込み上げてくる。
自分の全てが、惨めで仕方なく思えてしまう……。
袖で涙を拭い、そのまま口元を腕で押さえた。
「探し物は、これですか?」
突然、目の前へ差し出された大きな手のひら。
「ヒャッ!?」
あまりの驚きに、悲鳴にも似た声が喉から飛び出した。
「いっ、今泉さん!?」
飛び出した声は見事なまでに裏返り、目を見開いたまま声の主を見上げた。
「こんにちは。またお会いできましたね。……亜紀さん」
目の前に立つ長身の彼は、焦げ茶色の傘を微かに揺らしながら、穏やかに微笑んだ。
その笑顔を目にした途端、胸が指令を受けたかのように、トクトクと熱い鼓動を打ち始める。
「こんにちは。あの……」
柔らかな笑みに視線を奪われたまま、言葉を失った。
「……どうしました? 大丈夫ですか? 探していたのは、この指輪じゃありませんか?」
今泉さんは差し出した自分の手へ視線を落とし、涙の名残を残した私の視線をそっと誘う。
「えっ……あっ! そうです。これですっ!」
大きな手のひらにちょこんと乗った指輪を見つめ、歓喜の声を上げた。
急いで指輪を受け取り、内側に刻まれた文字を確認する。
【2004・11・20 R to A】
それは、結婚記念日と夫婦のイニシャル。
「間違いないです。私の指輪です!」
顔を上げ、思わず満面の笑みがこぼれた。
「やはり、その『A』の文字は亜紀さんのAでしたか。大切な指輪が見つかって、本当に良かった」
今泉さんは私の笑顔につられるように、満足そうに何度も頷いた。
「でも……どうして今泉さんが指輪を? 昨日、指輪の話なんてしましたっけ?」
微笑む彼を見上げ、不思議そうに首を傾げる。
「いえ、『ホテルに忘れ物があるから取りに行く』としか聞いていません」
「なら、どうして……」
今泉さんが、この指輪を持ってるの?
眉間に寄せた皺が、さらに深まった。