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コメント
1件
みぅです🤍🥀 第32話、読み終えました……。 指輪のエピソードが本当に綺麗で。今泉さんがあの窪みで見つけて、わざわざ探してくれたんだなあって思うと胸がぎゅっとなりました。「空も足元も見えない時代」って今泉さんの言葉、染みました。 それにしても亜紀さんの「形だけの夫婦」って告白……あの寂しさ、私にも刺さりました。慣れたって言いながら、本当は寂しいんだよね。 最後の「はい」、彼の瞳に吸い込まれるように頷くシーン、すごくドキドキしました……💘
「最初にぶつかった時、亜紀さん、第一声で『指輪!』って叫んだでしょう? 青ざめた表情で地面を見渡していたので。あなたと別れたあと、ふと思ったんです。本当は指輪を落としてしまって、それを探しに戻ったんじゃないかって」
「えっ。指輪って叫んだ……? そうでしたっけ? ……すみません。昨夜は色々あって気が動転していて……。すみません、自分からぶつかっておきながら、失礼な態度を……」
今泉さんとの運命的な……
いや、今泉さんからしてみれば、何とも迷惑で衝撃的な出会いだったのだろう。
昨夜の無様な自分を思い出し、気まずさに視線を落とした。
「亜紀さんは、すぐに謝るんだなぁ。これからは、その件で謝ったら本気で『こらっ!』って叱ります」
「えぇっ!? そんなっ、すみま……いえ、えっと……はい。もう謝りません」
「はい、ぜひそうしてください」
口元に笑みを浮かべながらも動揺を隠せずにいる私を見つめ、今泉さんは目を細めてクスクスと笑った。
「……私が指輪を落としたと思って、探してくださったんですか?」
以前より細かな傷が増えた指輪を、手のひらでそっと見つめる。
「探したというより、たまたま見つけたんです。昨夜は暗かったですし、もしかしたら見つけられていないかもしれないと思って。
今朝、通勤する時にこの辺りを気にしながら歩いていたら、あの窪みに落ちている指輪を見つけました」
今泉さんは、植え込みの手前にある、雨水が流れるよう緩やかに傾斜したコンクリートを指差した。
「そうですか……。あんな所まで転がってたんだ。見つけてくださって、ありがとうございます。本当に助かりました」
指輪を握り締め、感謝の気持ちを込めて深く頭を下げる。
「いやいや。僕が見つけたことで、亜紀さんの捜索が骨折り損になってしまって申し訳ない。でも、お会いできて本当に良かった。もし会えなかったら、この指輪をどうしようかと考えていたんです。そのまま置いておいた方がいいのか、それとも交番へ届けた方がいいのか……とかね」
「交番ですか……。行こうかとも思ったんですけど、こんな街中で小さな指輪を見つけても、誰も気にも留めないだろうと思ってました。きっと、一瞬見下ろしてそのまま通り過ぎますよ。高価な宝石が付いているわけでもない、ただの傷だらけのシルバーリングですから」
苦笑いを浮かべながら、握っていた手をゆっくり開く。
そして、指先でそっと指輪をつまみ上げ、左手の薬指へ静かにはめた。
「……空を見上げる余裕もなければ、足元へ視線を向ける余裕もない。それが今の時代なのかもしれませんね」
ぽつりぽつりと小雨になった空を見上げ、今泉さんが静かに呟く。
「……今泉さんは、いつも通勤でこの道を? 今日は日曜日なのに、お仕事なんですか?」
昨日とはまた雰囲気の違う黒いスーツ姿を見つめながら尋ねた。
「僕の仕事は平日も休日もありません。クライアントから呼び出しがあれば、すぐに向かわなければいけないんです。会社は、この道を10分ほど歩いた先ですよ」
今泉さんは、例の高級ホテルよりさらに先の方向を指差した。
「そうですか。大変なお仕事なんですね」
「いや、普通の営業マンですよ。呼び出しや休日出勤は、営業マンの悲しい宿命です」
小さく首を横に振りながら、今泉さんは柔らかく微笑んだ。
呼び出しや休日出勤が宿命か……
医師も営業マンも同じだな……。
風に流され、雲の切れ間が覗き始めた空をふと見上げる。
「亜紀さん、今からお帰りですか? ご主人がお家でお待ちかな?」
「えっ?」
ハッとして、空から今泉さんへ視線を戻した。
「今日は日曜日だし、ご主人さんと……お子さんもみえるのかな?」
今泉さんは一瞬だけ私の薬指に視線を落とし、言葉を続けた。
「いえ……子どもはいません。主人と二人きりで……。主人は出張で今夜は帰りが遅いので、この近くでゆっくり買い物でもして帰ります」
「ご主人さんも休日に出張ですか。ご主人さんも大変ですが、亜紀さんも寂しいですね」
「はぁ……寂しい……ですよね。もう慣れてしまいましたけど」
そう言って、私は口もとに偽りの笑みを貼り付けた。
……
形だけの夫婦。
夫に愛されない妻。
衝突して転んだ姿だけじゃない。
雨に濡れ、泥まみれになった姿だけじゃない。
夫婦関係まで晒してしまった自分を思い、自嘲的な笑みを浮かべる。
「それなら、今から僕に付き合ってくれますか?」
今泉さんはそう言って、雨上がりの空を眩しそうに見つめながら傘を閉じた。
「えっ……あの……」
瞬きを忘れ、彼の横顔を見つめる。
「せっかくこうして出会えたんだ。このまま、また昨夜みたいにさよならは寂しいでしょ。……いや、これは僕の一方的な気持ちなんですけどね」
今泉さんは耳の辺りを指で軽く掻き、照れくさそうに視線を逸らした。
今泉さん……。
「……」
胸がトクトクと甘い音色を奏でる。
彼を見つめる瞳が……熱い。
否定しなければいけないのに……
否定できない、心の誘い。
「ゆっくりお食事でもどうですか? また故郷の話をしたいな」
彼は私の瞳を見つめ、穏やかな笑みを浮かべた。
「……はい」
私は彼の瞳に吸い込まれるように、小さく頷く。
そして、そのあとから返事が自然と零れていた。