テラーノベル
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最初に意識を取り戻したのは、メバルだった。
頬を冷たい風が撫でている。
目を開けると、青い空が広がっていた。
雲が、はるか下にある。
「……え?」
メバルは自分の足元を見た。
何もない。
地面がない。
木も、山も、建物も、すべて遠く下に見えている。
「えええええええええっ!?」
メバルの体は、空から落ちていた。
腕をばたつかせても、落下は止まらない。
風が全身に叩きつけられる。
なぜ自分が空にいるのか、まったく分からなかった。
覚えているのは、洞窟の中で巨大な装置から光線を浴びたこと。
仲間たちが次々に消えていったこと。
そして、自分も消えたことだけだった。
「なんで空なの!? どうして!?」
地面が、どんどん近づいてくる。
下には深い渓谷があった。
その底には、細長い水場が見える。
水に落ちれば助かるかもしれない。
しかし、落下速度は速すぎた。
「これ、間に合わないよ!」
そのとき、渓谷の縁を走る人影が見えた。
黒い服。
見慣れた姿。
K-Tだった。
「Kさん!?」
地上にいたK-Tも、空から落ちてくる人影に気づいた。
「メバルがなぜ!?」
K-Tは、渓谷の斜面を駆け下りた。
メバルの落下地点を確認する。
水場までは、まだ距離がある。
K-Tは迷わなかった。
斜面を蹴り、崩れる石を踏み越え、全速力で走る。
「Kさん、逃げて!」
「黙れ!」
K-Tは水場のそばまで到達した。
メバルの体が、すぐ上を通過する。
手を伸ばす。
届かない。
K-Tはさらに前へ踏み込んだ。
落ちてくるメバルの腕をつかむ。
勢いを殺せない。
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K-Tはもう片方の腕をメバルの背中へ回した。
「つかまれ!」
「Kさん!」
K-Tはメバルを抱きかかえた。
二人の体が空中で回転する。
K-Tは、メバルを守るように抱えたまま、水面へ落ちた。
大きな水音が、渓谷に響き渡る。
二人の体は水中へ沈んでいった。
メバルは目を閉じた。
地面に叩きつけられたような痛みはない。
水が衝撃を吸収したらしい。
しかし、二人はそのまま水中深くへ沈んでいった。
K-Tは片手をメバルの胸元に回して抱きかかえ、もう片方の腕だけで水をかいていた。
装備を身につけたままの二人は重い。
片手だけでは、なかなか浮上できない。
メバルが目を開ける。
目の前に、K-Tの顔があった。
K-Tは苦しそうに息を止めながら、メバルを離さないようにしている。
メバルも水を飲みかけた。
息が苦しい。
視界が暗くなる。
K-Tは足を動かし、もう片方の腕で必死に水をかいた。
やがて、二人の頭が水面から出た。
「ぷはっ!」
メバルが大きく息を吸う。
K-Tも咳き込みながら、片手で泳ぎ続けた。
「Kさん、私も泳ぐ!」
「動くな」
「でも、Kさん片手しか使ってないよ!」
「お前を支えている」
「それは分かってるけど!」
K-Tは片手をメバルの胸元に回したまま、もう片方の腕だけで水をかいた。
メバルの体はK-Tの胸元に密着している。
その状況に気づいた瞬間、メバルの顔が赤くなった。
「Kさん……」
「何だ」
「私のこと、抱きかかえてるよね」
「これは正しい救助方法だった」
「知らないっ! 痴漢! 変態!」
K-Tは泳ぐ手を一瞬止めた。
二人の体が、再び水中へ沈みかける。
「……それは違う」
「何が違うの!」
「落下中の仲間を救助した」
「だからって、あんなにしっかり抱きかかえなくてもいいでしょ!」
「落下速度を考慮した」
「知らないっ! 私は覚えているからね!」
「忘れろ」
「絶対に忘れない!」
K-Tは黙って泳ぎ続けた。
やがて浅瀬へたどり着き、メバルを先に岸へ押し上げる。
続いて、自分も水から上がった。
二人は濡れた地面に倒れ込み、激しく咳き込んだ。
しばらくして、メバルが周囲を見回す。
「落ちたのに、痛くないね」
「水が衝撃を吸収した」
K-Tが答えた。
「このゲームでは、水に着地すれば落下ダメージを受けないらしい」
「じゃあ、次から高いところから落ちるときは、水を探せばいいんだ」
「浅ければ危険だ」
「分かった。深い水を探す」
「次がある前提で話すな」
メバルは立ち上がり、K-Tを見た。
彼の服は濡れている。
落下の衝撃で、呼吸も少し乱れていた。
それでも、メバルを抱きかかえていた腕は、最後まで離れていなかった。
「Kさん」
「何だ」
「正しい救助方法って言ったよね」
「ああ」
「知らないっ! 痴漢! 変態!」
メバルは顔を真っ赤にしたまま、K-Tの頬を平手で叩いた。
乾いた音が、渓谷の地下に響く。
K-Tはその場で固まった。
「これは、覚えているからねの分!」
メバルは手を振りながら言った。
K-Tの体が赤く点滅し始めた。
「え?」
メバルの顔から笑顔が消える。
「Kさん?」
K-Tは頬に手を当てたまま、ゆっくりと膝をついた。
「体力が……」
「まさか、ビンタで!?」
K-Tの体力は、レイナに貫かれた痛みや落下、水中での行動によって限界に近づいていた。
そこへ、メバルの攻撃が加わった。
赤い光がK-Tの全身を覆う。
「待って、Kさん! 今のは冗談!」
「……覚えておく」
「やだ、リスポーンしないで!」
K-Tの姿が赤く点滅した。
次の瞬間、彼はその場から消えた。
メバルは、しばらく何も言えなかった。
「……えええええええええっ!?」
渓谷の地下に、メバルの叫び声が響き渡った。
*
K-Tが次に目を開けたとき、そこは鉄の村だった。
鍛冶場の隣にある、小さな部屋。
K-Tは木製のベッドの上で上半身を起こした。
村人たちが、部屋の入口から様子を見ている。
「リスポーンしたのか」
K-Tは自分の体を確認した。
胴体の傷は消えている。
体力も回復していた。
ベッドの横には、持っていたアイテムが置かれている。
鉄鉱石。
青い鉱石。
工具。
そして、修理したガラケー。
すべて無事だった。
K-Tはガラケーを手に取った。
ひびの入った画面には、位置情報が表示されている。
そこに、新たな反応が一つ増えていた。
メバル。
K-Tが立ち上がったとき、村の入口から声が響いた。
「Kさ〜ん!!」
メバルが、村へ駆け込んでくる。
どうやら渓谷から、時間をかけて地上へ戻ってきたらしい。
「Kさん! さっきのこと、絶対に忘れないからね!」
村人たちが一斉にK-Tを見る。
K-Tはガラケーを閉じた。
「……武器を早く完成させる必要がある」
鍛冶場の炉では、赤い炎が静かに燃えていた。
コメント
1件
読了しました!第十二章、めっちゃ面白かったです! 空から落ちてくるメバルを「正しい救助方法」と言いながらギリギリで受け止めるK-Tさん、かっこよかったですね。でも直後の痴漢・変態呼ばわりからの平手ビンタでリスポーンしちゃうオチには笑いました(笑)。「覚えておく」の冷静さもK-Tさんらしい。 メバルの「絶対に忘れない!」の執着も可愛くて、このコンビのやり取り、毎回じっくり味わいたくなります。次の武器完成と新たな反応が楽しみです。