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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第48話:村を挙げての「シロ様感謝祭」
世界で最も高価な爪とぎ(ダイヤモンドの盾)が我が家の縁側に鎮座するようになってから、さらに数日が過ぎた。
十勝の秋は足早に過ぎ去り、朝晩の空気は冬のそれへと変わりつつある。
だが、我が家は今日もシロの『適温25度の神聖結界』により、暖房費ゼロで極上の春の陽気を保っていた。
「……ふぅ、平和だな」
俺は半袖姿で縁側に座り、ズタズタに傷がついたダイヤの盾の上で丸くなるシロと、その横で丸くなるキツネ兄弟(コン吉とコン次郎)を眺めていた。
そんな圧倒的平穏の中、古民家の庭先に、一台の軽トラが停まった。
「おーい、裕紀(ゆうき)くん! いるかね!」
ダミ声と共に現れたのは、この限界集落をまとめる顔役、村長の佐藤だった。
「村長さん、どうしたんですか? また温泉の配管でも詰まりましたか?」
「いやいや、そうじゃないんじゃ。今日はな、村の皆で話し合って決めた『大事なお願い』があって来たんじゃよ」
村長は被っていた農協の帽子を取り、シロに向かって深々と一礼した。
「実はな、今週末に村の広場で『シロ様感謝祭』を開きたいんじゃ!」
「……はい?」
俺は耳を疑った。
村長の話によると、シロが来てからというもの、枯れた温泉は復活し、おすそ分けした『光る野菜』を食べた老人たちの腰痛や神経痛が完治。
さらに、テレビ局の連中を追い払ってくれた(村人は『キツネとヒグマの神隠し』と呼んで恐れ敬っている)ことで、村はかつてないほどの活気と平和に包まれているという。
「だから、今年の秋祭りは、シロ様を主神としてお祀りし、村を挙げて盛大に感謝を捧げたいんじゃよ!」
「いやいや、村長。シロはただのちょっと毛並みのいい猫ですよ? 神様だなんて、大げさな……」
俺が断ろうとした、その時だ。
「お兄さん! 大賛成です!!」
自転車でやってきた小春ちゃんが、目をキラキラさせながら会話に乱入してきた。
「シロちゃんのお祭りなんて最高じゃないですか! 私も設営手伝います! もちろん、配信もバッチリ回しますよ!」
『ミャウ♪(いいわね)』
当のシロも、お祭り(=美味しいものが食べられる)と察したのか、村長に向かって誇らしげに喉を鳴らした。
こうして、限界集落の住人約30名による、手作りの小さな『秋祭り』が開催されることになったのだ。
週末の夕暮れ時。村の小さな広場には、提灯が飾られ、いくつか手作りの屋台が並んでいた。
「さぁさぁ! シロ様の魔法の畑で採れた『光る大根』を使った、特製豚汁じゃよー!」
「こっちは十勝川で獲れた鮭の炭火焼きだ! シロ様に一番大きいのを献上するべ!」
村のおじいちゃん、おばあちゃんたちが、楽しそうに屋台を切り盛りしている。
広場の中央には、赤い布が敷かれた特等席(お立ち台)が用意され、シロとキツネ兄弟が鎮座していた。
「よし、お兄さん! 準備オッケーです! 配信スタートしますね!」
法被(はっぴ)姿の小春ちゃんが、ジンバルにセットしたスマートフォンを掲げた。
「世界中の皆さーん! こんばんは! 【日常チャンネル】です! 今日はなんと、村を挙げての『シロ様感謝祭』の会場から生中継でお届けしまーす!」
小春ちゃんが元気よく挨拶した瞬間。
現在1000万人を突破しているチャンネルの同接カウンターが、狂ったような速度で跳ね上がり始めた。
300万……500万……700万人……!!
『待ってたぞおおおおお!!』
『シロ様感謝祭キターーー!!!』
『祭りと聞いて、世界中から飛んできたぜ!』
『村人30人の祭りに、オンライン参加700万人wwww』
『規模がバグりすぎだろww世界最大のフェスじゃねえか!!』
限界集落の、ほんの小さな広場で行われている手作りの村祭り。
しかし、スマートフォンのレンズを通した向こう側では、オリンピックの開会式すら凌駕する人数の観衆が、熱狂の渦に巻き込まれていた。
「あははっ! お兄さん、世界中の皆さんが『オンライン参加』してくれてますよ!」
「……恐ろしい時代になったもんだな。俺はただ、村長の作った豚汁が食べたいだけなんだが」
俺が呆れながら、屋台でもらった豚汁(大根が真珠のように発光している)を啜っていると。
画面の右端で、いつものVIPたちによる『狂乱の宴(MeTubeギフト祭り)』が始まった。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト×100連発)=”A FESTIVAL FOR SHIRO!? I WILL BUY ALL THE STALLS! LET THE GOLDEN FIREWORKS FLY!“(シロの祭りだと!? 屋台をすべて買い取るぞ! 黄金の花火を打ち上げろ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト×100連発)=”I’m opening a virtual stall! Everyone, eat whatever you want! I’m paying!“(私がバーチャル屋台を出資する! 皆、好きなものを食べたまえ! 私のおごりだ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×20連発)=”Happy Festival! Shiro, enjoy the salmon!“(ハッピーフェスティバル! シロ、サーモンを楽しんでね!)』
「ひゃわあああっ!? お、お兄さん! MeTubeギフトの勢いが止まりません! 石油王さんたちが『屋台の代金』として、何千万も投げ銭してます!!」
小春ちゃんがパニックになりながら叫ぶ。
画面上では、視聴者たちが「俺は焼きとうもろこし!」「私はりんご飴!」というコメントと共に少額のMeTubeギフトを投げ、まるで本当に屋台で買い物をしているかのように『オンライン祭り』を楽しんでいた。
『ネットの海が完全に巨大な夏祭り会場になってるww』
『主、俺の分の豚汁も食っといてくれ! はい500円!』
『シロ様に特大の鮭を! はい10000円!』
限界集落の広場には30人しかいないのに、飛び交う金と熱気は、完全に世界最大規模の経済効果を生み出していた。
「お兄さん! みんなが『発光する豚汁』のトリックを教えてくれって言ってますよ!」
小春ちゃんが、カメラを俺の手元にあるお椀に向けた。
お椀の中では、シロの畑で採れた大根や人参が、LEDライトのように七色の輝きを放ち、豚汁全体をサイバーパンクなスープに変貌させている。
俺は、豚汁を一口啜り、極めて冷静な『限界社畜のフラットボイス』で語りかけた。
「……皆さま、落ち着いてください」
『出たwwwww』
『祭りの最中でもブレない主の限界言い訳タイムww』
『さぁ、このゲーミング豚汁をどう説明する気だ!!』
俺は、完璧な営業スマイルを浮かべた。
「北海道の秋の夜風は非常に澄んでおり、広場の提灯の光が、豚肉の良質な脂に乱反射しているだけです。ええ、ただの光の屈折と、田舎の新鮮な食材が織りなす『イリュージョン』ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんの鋭いツッコミが、夜の広場にこだました。
「提灯の光の屈折で、大根が内側からネオンサインみたいに光るわけないでしょ! どう見てもシロちゃんの神聖力がたっぷり詰まった魔法の野菜じゃないですか!!」
『小春ちゃんのツッコミ、今日もお見事ww』
『光の屈折(物理法則無視)』
『イリュージョン(魔法)』
『適応力バグおじさん、ついにゲーミング豚汁すら光の反射で片付ける』
俺の苦しすぎる言い訳に、700万人の視聴者から大爆笑とツッコミの弾幕が浴びせられる。
「あはははっ! もう、お兄さんには敵いませんね!」
小春ちゃんが涙を流して笑い、村のお年寄りたちも、何が起きているのかはよく分かっていないが、俺たちのやり取りを見て楽しそうに手を叩いて笑っている。
『ミャウ♪』
特等席にいるシロは、村長から献上された巨大な鮭の炭火焼きを美味しそうに頬張り、その横でキツネ兄弟もおこぼれをもらって幸せそうに尻尾を振っていた。
「……まぁ、皆が笑顔なら、それでいいか」
俺は、光る豚汁を飲み干し、夜空を見上げた。
限界集落の小さな祭りは、いつの間にか国境を越え、何百万人という人々の心を繋ぐ『世界最大のオンラインフェス』となっていた。
どれだけ視聴者が増えようとも、どれだけ莫大な金が動こうとも。
俺たちの中心にあるのは、一匹の純白の猫と、この温かくて少しバグった日常だけだ。
「よし、小春ちゃん。俺たちも屋台の焼きそば、買いに行こうか」
「はいっ! お兄さんのおごりですね!」
秋の夜空の下。
世界中からの祝福とマイナスイオンに包まれながら、限界社畜が手に入れた最高のスローライフは、今日も賑やかに、そして幸せに続いていくのだった。
コメント
1件
「シロ様感謝祭」、めちゃくちゃいい話だった…!村全体がシロを中心にまとまって、しかもオンラインで700万人が参加するフェスになっちゃうって規模感バグりすぎて笑ったw でも主の「光の屈折」理論でごまかそうとする適応力と、小春ちゃんのツッコミのコンビネーションが最高すぎる。ゲーミング豚汁はさすがに反則だろw そして最後に焼きそば食べに行くって締めくくりが、この作品の「日常の温かさ」を感じさせてグッときた。シロを中心にしたこのゆるい世界、ずっと見てたいわ🔥