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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第27話:光る野菜の試食会。味覚が天国へ到達する
トントン、トントン……。
古民家の台所に、心地よい包丁の音が響き渡る。
「お兄さん、涙が出てきませんね……! この玉ねぎ、切っても全然目が痛くならないです!」
「ああ。それどころか、切った断面からマイナスイオンみたいなのが出てる気がするぞ」
俺はまな板の上で、真珠のように光り輝くタマネギ(もはやタマネギと呼んでいいのか分からない物体)をみじん切りにしながら頷いた。
今日は、あの魔法の畑で収穫した『ゲーミング野菜(視聴者命名)』を使って、特製カレーライスを作る日だ。
鍋の中で炒められているルビーのように発光するトマトと、黄金のオーラを纏ったジャガイモ。エメラルドの剣のようなキュウリは、カレーの具にするか迷ったがサラダにすることにした。
鍋の中の具材がグツグツと煮込まれるにつれ、台所にはカレーのスパイスの香りと共に、森の奥深くの清泉で深呼吸をしたような、極上の清涼感が漂い始めていた。
「よし、ルーを入れて……完成だ。小春ちゃん、縁側に運んでくれ」
「はいっ! わぁ……カレーなのに、お鍋の中から光が漏れてますよ……!」
縁側にセットされたスマートフォンの前、つまり全世界200万人の視聴者の前に、大きなお皿に盛られた『光るカレー』が鎮座した。
そしてその隣には、サラダと、シロ用の特別メニュー。
猫にスパイスやタマネギは厳禁なので、シロには『光るトマトと黄金ジャガイモ、そしてウォール街から届いた最高級和牛をコトコト煮込んだ特製無水スープ(味付けなし)』を用意した。
『ミャウ♪』
シロは自分の前に置かれた専用スープの匂いを嗅ぎ、早く食べさせろとばかりに尻尾をパタパタと振っている。
『光るカレー、ついに完成!』
『画面越しでもヤバいオーラが伝わってくるww』
『カレーなのに神聖すぎるだろ』
『これ食べたら状態異常全部回復しそう』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”Master! Please tell me the taste! I am drooling in Dubai!“(主よ! どうか味を教えてくれ! ドバイでヨダレを垂らしている!)』
チャット欄のボルテージは最高潮に達していた。
「それじゃあ、冷めないうちにいただこうか」
「はいっ! いただきます!」
俺と小春ちゃんはスプーンを手に取り、ルーとご飯、そして光るジャガイモをすくい上げた。
スプーンの上でも、カレーはほんのりと後光を放っている。
俺はゴクリと喉を鳴らし、そのまま一口、カレーを口の中に放り込んだ。
「――――」
「――――」
瞬間。
俺と小春ちゃんの動きが、完全に停止した。
『……あれ? 止まった?』
『回線落ちか?』
『いや、シロ様は後ろでスープ爆食いしてるぞwww』
視聴者がざわつく中、俺の意識は、文字通り『肉体を離れ、遥か高みへと飛翔』していた。
――気がつくと、俺は一面のお花畑に立っていた。
足元には、見たこともないような色鮮やかな花が咲き乱れ、どこからか美しい琴の音色が聞こえてくる。
空は突き抜けるように青く、温かい光が全身を包み込んでいる。
「……ここは?」
俺が呆然としていると、少し離れた場所に、同じようにキョロキョロしている小春ちゃんの姿があった。
「あ、お兄さん! どこですかここ……すごくポカポカして気持ちいいですね」
「……分からない。だが、ものすごく、圧倒的に心が安らぐ……」
ブラック企業時代に抱えていた全てのストレス、将来への不安、過去の後悔。
それらが、このお花畑の風に吹かれただけで、チリとなって消え去っていくのがわかった。
「おや……? 裕紀(ゆうき)、裕紀じゃないか」
ふと、前方から声がした。
「……え?」
そこには、数年前に亡くなったはずの、俺の祖父が立っていた。
真っ白な着物を着て、にこやかに微笑みながらこちらに向かって手を振っている。
「じ、じいちゃん!? なんで……」
「お前もこっちに来たのか。よく頑張ったな。さあ、こっちの川を渡っておいで」
祖父の背後には、キラキラと輝く美しい川が流れていた。
その川の向こう岸は、さらに神々しい光に包まれている。
「川……? まさか、三途の……」
「あーっ! 私のおじいちゃんもいますよ! おーい!」
隣で、小春ちゃんが川の向こうに向かって無邪気に手を振り返している。
ヤバい。
これは、圧倒的にヤバい。
俺たちは今、カレーのあまりの美味さと、限界突破したマイナスイオン(神聖力)の直撃を受け、意識が彼岸(天国)の入り口まで吹っ飛んでしまっているのだ!
「小春ちゃん! ダメだ、そっちに行っちゃいけない! 目を覚ませ!!」
俺が小春ちゃんの手を引こうとした、その時だった。
『……ミャァァァン!!』
天国のお花畑に、この世のものとは思えないほど大きく、そして甘ったるい『猫の鳴き声』が響き渡った。
瞬間。
足元のお花畑も、川も、亡くなった祖父の姿も、パチンと弾けるように消え去った。
「――――っ! はぁっ!!」
俺は大きく息を吸い込み、現実世界(古民家の縁側)へと強引に引き戻された。
隣を見ると、小春ちゃんも「はわっ!?」と変な声を上げて目をパチクリとさせている。
「……も、戻ってきたか」
俺はぜえぜえと息を切らしながら、手元のスプーンを見た。
「お兄さん……今の、なんだったんですか……? 私、お花畑に……」
「……味覚が、天国に到達したんだ。シロの野菜の美味さとヒーリング効果が強すぎて、一時的に脳がショートして、三途の川が見えた……」
『三途の川wwwwwwww』
『主、ついに食事で臨死体験をする』
『美味すぎて意識飛んだのかよ!!』
『小春ちゃんもフリーズしてたぞwwwどんだけ美味いんだ!!』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500ギフト)=”Oh my God!! Food that takes you to heaven?! I want to eat it before I die!!“(オーマイガー!! 天国に行ける食べ物!? 死ぬ前に食べたいわ!!)』
チャット欄は、俺たちの臨死体験(試食)レポートに大爆笑と驚愕の渦に包まれていた。
「……でも、これ……」
俺は震える手で、もう一口、カレーを口に運んだ。
今度は意識を持っていかれないように、しっかりと現実に踏みとどまりながら、その味を噛み締める。
「……美味い。美味すぎる……」
口の中でとろける野菜の甘み。スパイスの香りを完全に調和させ、さらに一段上の次元へと引き上げる、神聖な旨味の暴力。
飲み込んだ後、胃の奥底から全身の細胞に、新しい命が吹き込まれるような感覚。
もはやこれは『料理』ではない。奇跡そのものを食べているようなものだ。
「おいひぃ……! なにこれ、おいひぃですぅ……っ!」
小春ちゃんは、感動のあまりボロボロと涙を流しながら、猛烈な勢いでカレーをかき込み始めた。
「こ、小春ちゃん、落ち着いて! また川の向こうに呼ばれるぞ!」
「だって、スプーンが止まらないんですもん! 止めたら向こう岸のおじいちゃんが悲しむ気がして……!」
「どんな理屈だよ!」
俺たちが涙と鼻水を流しながら、一心不乱に光るカレーを貪り食っている横で。
『……ふぅ』
という、満足げな猫のため息が聞こえた。
視線を向けると、そこには、自分の特製野菜スープ(和牛入り)を綺麗に平らげ、お皿をピカピカに舐め終わったシロの姿があった。
しかし、その姿は、先ほどとは明らかに違っていた。
「……おい、シロ。お前……」
「シロちゃん……めっちゃ光ってます……!」
自分で錬成した『神聖な土』から育った『光る野菜』を、たっぷりとお腹に収めた結果。
シロの純白の毛並みは、もはや電球やLEDの比ではない、圧倒的な『超絶発光体』と化していた。
直視できないほど眩しい真珠色の光が、シロの体から後光のように放たれ、古民家の縁側を白昼のように照らし出している。
『シロ様が進化したwwwww』
『ゲーミング猫爆誕!!!!』
『眩しい! 画面越しでも眩しい!!』
『自家発電(物理)』
『これ夜道歩いてたらUFOと間違われるだろ絶対www』
チャット欄のツッコミが追いつかないほどの、圧倒的な光量。
しかし、その光は決して目を刺すような嫌な光ではなく、見ているだけで心が浄化される、究極のマイナスイオンの塊だった。
「……まぁ、いっか。電気代の節約になるし」
俺は、適応力(現実逃避スキル)をフル稼働させ、眩しすぎるシロの頭を優しく撫でた。
「シロ、ごちそうさま。最高に美味かったよ」
『ミャーウ♪(お粗末さま!)』
シロは誇らしげに胸を張り、ピカピカと光りながら俺の膝の上に丸くなった。
三途の川が見えるほどの美味さと、物理的に発光する神猫。
北の大地のスローライフは、もはやスローの定義すら怪しくなってきたが……この圧倒的な多幸感と満腹感の前には、細かい理屈などどうでもよかった。
俺たちは、輝く相棒のお腹を撫でながら、世界中で一番幸せな夕食の余韻に浸るのだった。
コメント
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寺島あおいです🌷 「三途の川が見えるカレー」って…もう笑いと感動が同時に来ました!味覚が天国に到達するって、まさに体験型ギャグの極致ですね。シロが光る野菜を食べて超発光体になったのも可愛くて、心がぽかぽかしました。こんなに美味しくて癒される夕食、読んでるこっちまで幸せな気分になれました。ゆうきあきやさん、最高のエピソードをありがとうございます!