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セージとの会話を終え、俺たちは二人の元へと戻る。
これはもう、完全にイジりに入ったのだろう。未だに止めない妹の視線を無視して、俺は伊織へと近づく。
「まぁ、あれだ……本当に大したことは無いんだ。そこのおバカな妹様のせいで、ちょっと傷口が開いちまったが……ほら、ちゃんと腕だって上がる上がる」
そう言いながら、伊織に「大丈夫だ」とアピールするために、笑いながら腕を何度か回す。本当はまだ痛いけど……伊織を安心させるためならば、これくらいの痛みは全然大した痛みじゃない。
伊織は怪訝そうな顔をしながらも、渋々納得したかのようにため息をつく。
「……分かりました、ヤヒロさんの言葉を信じましょう。……ですがヤヒロさん。本当に無理や無茶はしないでください。アナタの身に何かあってからでは、遅いのですから……」
「分かってるよ、イオ。次からは気をつける」
……というか、俺も次があるのは御免被る。俺はこう見えて、かなりデリケートな生き物なんだ。これ以上痛い思いや、辛い思いをするのは二度とゴメンだ。
「よし、とりあえず……ロキが戻ってくるまで大人しくするぞ。分かったかー? そこのおバカな妹よ」
「むむっ。『バカ』って言う方が『バカ』なんだよ! ヒロくん!」
妹は猫のように「シャーッ!!」と声を出して、俺を威嚇する。
いや、お前。疲れてる兄ちゃんに『腕ひしぎ十字固め』……しかも、怪我してる方の腕に決めるか? 普通決めんだろう。
「おバカな子に『バカ』と言って何がおかしい、我がおバカな妹よ。兄ちゃん危うくスキップしながら川を渡って、お花畑で花冠作るところだったぞ」
俺がそう言うと、妹は「えっ!?」と、驚いた顔をする。
(おっ……? 珍しく素直に、少しはお兄ちゃんの心配でもしてくれるのか?)
……何て、一瞬思ったりもしてみが……。妹は口元に手を当て、それはそれは残念なものを見るように、これでもかと眉を寄せる。
「ヒロくんとお花畑とか……似合わなすぎるよ」
「……うん、まぁ……それは兄ちゃんも、ちょっと思ったわ……」
この妹が少しでも心配してくれると、期待した俺が馬鹿だった。
この妹は、悲しいくらいに通常運転だった。
「妹よ……兄は悲しいぞ。こんな薄情な妹に、育ってしまったことに……」
俺は舞台役者のように、大袈裟にわざとらしくそう言っては、「およおよ」と涙を拭うふりをする。
そしてチラッと妹を見れば……腕を左右交互に伸ばし、指を小さくポキポキと鳴らしている。あっ、ヤベェ。
妹は少し重心を落として構え始める。マジで、ヤベェぞ、コレ。目がガチだ。
「おいおい、我が妹よ。こんな優しいお兄ちゃんにそんな酷いことを……って、冗談です! 待って、怪我してる方はマジでやめろ。本当は凄く痛いから、ホント、マジで、やめてください!」
俺は伸びてくる妹の腕を避けながら、懇願する。
普段は運動なんかしないくせに、年一で行われる体力テストでは、何故だか毎回、敏捷性だけは、異様に高い数値を叩き出している妹。
そんな妹が……的確に俺の右腕だけを狙ってくる。この繰り出される素早い手の動き……俺でなきゃ見逃しちゃうね!
「待て待て、妹よ。兄ちゃんが悪かった……だから、な? 傷口に塩どころか、杭を打ち込んでえぐるようなことはせずに、ココは穏便に話し合おうじゃないか!?」
「はっはっはっ! 話し合いで和解しようなど……もう遅い!!」
妹のその言葉に、思わず「お前はどこの『もう遅い系の主人公』だ!?」とツッこんでしまう。
思い出して欲しい。ココは人気の少ない路地裏。そして明かりが少なく、全体的に薄暗い。
妹の攻撃を躱すことに集中しすぎて、足元がお留守になる。
俺は何か丸くて硬いものを踏んでしまい、バランスを崩してしまう。
「ヤヒロさん! 危ない!」
セージが慌てたように声を上げる。
「げっ……!」
「もらったぁ!!」
俺が「倒れる!」と思った瞬間――――『フワッ』と、何かが身体を支えられる。それは手や壁などとは違う、柔らかな感触。そう、これはまるで――――。
「……うぉっ?」
不思議な感覚に驚いているのも束の間、俺が倒れなかったために、妹が顔面から俺の腹に突っ込んでくる。
「ぎゃん!」
「ぐえっ!」
ギリギリみぞおちや胃は回避したが、なにぶん勢いがそこそこあったがために痛い。
俺は腹を、妹は顔を抑えて互いに悶える。
「何やってるんですか、二人とも……」
その光景を終始見ていた伊織が、頭を抱えながら盛大なため息をつくのが聞こえてくる。
「いや、俺全然悪くない……」
「ノォン……! 鼻とデコがぁ……!」
「どっちもどっちです」