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お母さんが悲しんでいた。でも、その悲しんでいた理由は教えては貰えなかった。
いつの日からか、お母さんは私に期待するようになった。貴方は、人の二倍頑張らないといけないと。何で二倍なのか。頑張っても、努力しても、それでも、認めてくれないくせに、何でずっと、二倍頑張れと言ったのか。
その理由は分からなかった。
でも、心の何処かで気づいていたのかも知れない。
お母さん達が、一年に何度か、私をおいて出かけに行ったこと。その先が、誰かの墓参りだったかも知れないと言うこと。
私は気づいていて、気づかないフリをしていたんだ。
だって、記憶になかったから。覚えてもいなかったから。
私に、双子の妹がいたことなんて。
「アンタは、私の双子の妹?」
ぽつりと零したその言葉に、トワイライトは目を見開いた。ようやく思い出したのかとか言うそういう顔じゃなくて、思い出さなくてもよかったのに。その方が幸せだっただろうに……そう言うような顔。
その顔を見て、何だか罪悪感が込み上げてきて、このままじゃいけない気がしてきた。
私は、無意識に手を伸ばしていた。それを、リースが静止する。
「ダメだ、行ってはいけない」
「でも、あの子は、私の双子の妹……だと、思う。てか、何でリースが知ってるの? 私ですら知らなかったのに。何で」
「……」
リースは私を見て、言うべきかどうか、と言うような表情をしていた。
彼の一言で、トワイライトの正体に気付けたというのに、何故かリースは言ってはくれなかった。言うのをためらっているからかも知れない。でも、それは優しさではない。
(これを、はっきりしないと、私はこの先に進めない)
ずっと感じていた違和感。そして、お姉様と呼ばれても不思議と嫌じゃなかったのは何でか。でも、死んでいるとしたら、彼女を覚えているはずなのだ。と言うことは、彼女は私が物心つく前に死んだという可能性がある。
両親と話してこなかったせいで、彼女の存在に気付けなかったのだ。
でも、死んだはずの天馬廻がここにいるのは何故? そして、私を覚えているのは何でだろうか。沢山の疑問を晴らしたいと、私はリースを見た。
知っていることを教えて欲しい。
「リースお願い。教えて。何で知ってるの。何で……」
「俺の母親は、お前の所の両親に酷く嫉妬していた。自分が就職したかった会社に落ちて、格下の会社に……傘下の会社に入った自分が許せなかった。だから、ずっとお前の両親を憎んでいた」
「……え、え、だから何」
「まあ、簡単に言えば、俺の母親とお前の両親は幼馴染みだったというわけだ。ずっと競い合ってきた仲らしい。それで、俺の母親はいつも三番手だったとか……そんなこと、どうでもイイが」
と、リースは言う。
今更、前世の話をされてもという感じもしたが、私の知らない両親の姿をリースは淡々と語っていた。リース……遥輝と私の両親は繋がっていたのかと思うと、驚きが隠せない。問題は、リースの言うとおりそこではないが。
「それで、何が言いたいの」
「つまり、お前の両親を引きずりおろそうとした。勝てないと見込んだからだろう……だから、お前の両親の弱みを握ることにした。それでも、お前の両親は弱みなんて見せなかった。完璧だったんだ」
「……完璧」
「その完璧の中に、一カ所だけ穴があったが……それが、お前の双子の妹のこと。亡き妹……天馬廻の存在だ」
リースはそう言うと、トワイライトを見た。
トワイライトの中身、魂と言うべきだろうか、それが燃えているのを感じる。前世ではすぐに散ってしまったその魂が今ここで輝いている。汚く、黒く……それでも、本物の妹だと思うと、その濁りきった魂の中に輝きを感じざる終えなかった。
私は、真実をそのまま受け入れている。
「つまり、アンタの母親は、私の双子の妹が死んだ事実に気がついたと」
「そういうことだな。だから、ことあるごとに言っていたんだ『娘がいなくなって可哀相ですね』と。だから、お前の両親はお前に期待していたんじゃないか。完璧な娘であれと、二人で一人の完璧な娘で……と。俺の母親が圧をかけていたとはいえ、お前の両親も大概だと大網が……こんなことを言う権利は俺には無いのかも知れないが」
リースは言葉を句切る。
私は、別にそんなことはどうでもイイと思った。だって、大人同士の話がどうであれ、私の両親は、そんな死んだ片割れの分まで背負って生きろと押しつけてきたのだ。そのくせ、認めもしなかった。毒親だ。
だから、リースがどれだけ私の両親のことを貶しても何とも思わない。実際、リースも母親のせいで苦しい思いをしてきたことに変わりないし……
私達は似ていると思ったが、両親も大概似ていたのかも知れない。
「……でも、分からない。どういうこと……」
「エトワール」
いつ死んだのだろうか。でも、死んでいたとして、今になって何で私の前に現われたのか。
目の前にいるのは、本物の私の妹のはずなのに。
「エトワール様、殿下の言っていることは本当よ」
「リュシオル」
そこまで黙って聞いていたリュシオルが口を開く。あのもやは消えて、喋れるようになったリュシオルは、苦しそうに顔を歪めていた。そういえば、リュシオルは現世に戻っていたと言っていたことを思い出す。リュシオルは、現世に戻って、この物語の原作者に会ったと言っていた。そして、リュシオルは私の両親とも話してきたと。
「貴方には、確かに妹がいたわ。双子の妹、殿下の言うとおり、天馬廻っていう女の子が。でも、幼いとき、交通事故で死んでしまったと……その時、エトワール様、巡だけ助かったと……」
「……そう、だったんだ」
何も両親は話してくれないから。何も知らないままだった。期待されている理由も、押しつけられている理由も、これだったのかと、案外ちっぽけで大きな物だったと今になって思った。けれど、今あっちの世界には私はいないわけで。
複雑だった。
「トワイライト」
私は、死んだはずの妹と向き合った。トワイライトはなんとも言えない表情で私を見つめている。彼女が、私のことを本当の姉だと気づいたのはいつかは、知らないし、分からない。でも、それでも、彼女は私のことを慕ってくれていたのだ。
言葉が届かないとかそういうのは関係無くて、今彼女と向き合いたいと。
「来ないで下さい。お姉様」
「何で……黙ってたの? 私……言われても分からなかったかもだけど、本当の妹だったなら」
「言っても信じてもらえないじゃないですか。と言うか、言わないつもりでいましたし……言ったところで何も変わらないですよ」
今の私は、トワイライトで、お姉様はエトワールでしょ。
と、トワイライトは言った。確かにその通りだ。前世が、巡と廻という双子だったとしても、今は関係無いのかも知れない。それは、今ここにいる、転生組にも言えることだ。大事なのは今だと。
だったら、なおのこと、私はトワイライトと向き合わないといけないんじゃないかと。
「そうだね、アンタの言うとおり。関係無い。でも、私は今のアンタを見てる。アンタが、私のことをお姉様って慕ってくれたこと嬉しかったから。もし、アンタが少しでも前世のことを思って、今世は幸せな姉妹になりたいって思っているならそうなろう。二人でそうなっていこう。だから、もう、こんなことやめようよ。何も産まない。辛いだけ」
「……お姉様と二人きりの世界じゃないと……お姉様は、誰かの物になるじゃないですか」
「……そんなことない」
彼女が、この世界が乙女ゲームの世界だと分かっているからこんなことを言うのだろうか。まだ、判明されていない謎と言えば其れだ。物心つく前に死んでいるのに、私のことを覚えているという事実。そうして、同じ年齢まで育った過程……とか。
「お姉様は知らないでしょ。お姉様は愛されているんです。だからこそ、まわりがお姉様を狙って、私から奪おうとしてくるんです」
「そんなことないって」
「そんなことあるんです。だから、だから、私は……お姉様と二人きりの世界が欲しい。もう、独りぼっちは嫌なんです。でも、誰かに愛されたいわけじゃない……お姉様だけ愛せれば良いんです。だって、お姉様だって、一人で悲しかったでしょ。私の分を押しつけられて、狭い世界で生きて……だから、私が解放してあげるんです」
そう、トワイライトは笑って両手を広げた。
彼女の後ろから黒いもやが現われる。前に見たものと同じ、混沌におかされて闇落ちしている証。
矢っ張り私の声はまだ聞えていない。
(どうにかして、あの子の考え方を変えてあげないと)
私は、彼女の姉だ。それは、エトワールとトワイライトになっても変わらない。
二人ぼっちの星なんてちっとも輝けないじゃない。
「リース手伝って」
「ああ、元からそのつもりだ」
「……トワイライト、アンタは私が救ってあげるから」