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アツシはゆううつである。
その理由としていまアツシはトモコと机をくっつけているからだ。
「ごめんなさい……」
「あ、ううん……」
そうしているのは、突然ふたりの仲が良くなったというわけでもなく、単純にトモコがまだこの学校の教科書をそろえられていないからだ。
そしてもうひとつ、トモコが大きな眼鏡の奥で目をはらして半泣きになってプルプルしているからである。
「与那国……? 変な名前ーっ」
「制服は前の学校のやつか。芋くせーなー」
「変な髪型」
「変な顔」
トモコが挨拶をミスったのだろうか。文字は慣れないチョークで緊張して震えてまともに書けてないし、声は小さすぎた。
アツシがひとりで喜んだ彼女の特徴は、クラスメイトの笑いを誘い、心ない言葉を吐き出させた。
「静かにしてください」
おばあちゃん先生が優しく、けれどもいくらかの威厳のようなものを含めた声に、子どもたちも静かになった。
子どもたちに悪気はなかった。
かといってトモコの緊張をほぐそうとかいう計らいなわけもなく、ただ単にこのクラスのノリだったのだが、余所者のトモコにそれが分かるはずもなく、うつむくトモコを見てみんながマズったと感じただけだ。
「みんな、これから仲良くしてあげてね」
それでも責めるようなことは言わないおばあちゃん先生に、子どもたちも口々に返事をするが、トモコはうつむいたままに教えられた席に向かい静かに歩いて座っただけだ。
それを、アツシは正面から見ていた。
真っ直ぐに歩いているようで、少しふらつく足取り。
横一文字に結んだくちびる。
恥ずかしそうな、悔しそうなその顔を。
そして、クラスメイトたちの顔を。
“陰キャのことは陰キャだろ”と言わんばかりの瞳たち。
おばあちゃん先生も席まで来て「与那国さんをよろしく」などと言っていく始末。
そうこうしているうちにホームルームは終わり、おばあちゃん先生と入れ替わりに数学の先生が入ってきて今にいたる。
「……」
「……」
ふたりとも無言である。アツシがページをめくり、トモコはそのたびに首でありがとうとするだけだ。
授業の終わりを告げる鐘がなっても、アツシは机を離さない。
というか離せないのだ。
(すぐに離したらいやいやしてるって思われそうだ……)
かといって見知らぬ女子と机をくっつけたままというのも居心地が悪い。
そんなアツシの内心を知ってから知らずか、授業の終わりを待っていたかのようにクラスメイトたちがやってきたおかげで自然と離れることが出来た。
トモコを囲む人だかりは、次第にアツシを追いやり休み時間が終わるまでアツシの椅子はアツシのものではなくなった。