第54話:遊園地と安心ラベル
午前の光が差し込む遊園地。入口には「協賛アトラクション 幸福度ポイント安心イチ」と大きな看板が掲げられている。
水色のパーカーに短パン姿のまひろは、手に小さなチケット端末を握りしめていた。
隣にはラベンダー色のブラウスにベージュのスカートを着たユナ。肩までの黒髪を風に揺らし、ドリンクボトルを下げている。
二人は券売機の前に立ち、端末に光が流れる。
まひろが声に出しながら入力した。
「キップ」
↓
「カンランシャ フタリ」
↓
「カイケイ」
↓
「ケッサイ」
↓
「オワリ」
ピッと音が鳴り、画面には【アンズイ完了】の表示。チケットが光を帯びて端末から浮かび上がるように表示された。
ユナはふんわり笑みを浮かべながら、まひろに言った。
「え〜♡ チケットもカナルーン入力で安心なんだよ。だから“協賛アトラクション”って呼ばれてるんだよねぇ」
観覧車のゴンドラに乗り込むと、天井の小型カメラが赤く点滅していた。
窓の外に広がるのは、「未来特区」の高層ビル群と遊園地のカラフルな景色。
まひろは無垢な瞳で天井を見上げ、首をかしげる。
「……僕たち、遊んでるときまで見られてるの?」
ユナは気にも留めないように笑った。
「安心ラベルが付いてるんだから大丈夫だよ。協賛アトラクションは“未来の平和”を守るためにあるんだよねぇ」
ゴンドラが頂点に達したとき、下の広場のスクリーンにCMが流れ始めた。
「協賛アトラクションは市民ランクに幸福をもたらす!」
子どもたちが一斉に「アンズイで安心〜!」と叫ぶ映像が続き、観客からも笑顔があふれる。
だが別の場所、暗い部屋で緑のフーディを羽織ったゼイドがモニターを見つめていた。
無数のゴンドラの中で、市民が安心ラベルの下で遊ぶ姿が映し出されている。
「協賛……安心……。
楽しみさえもラベルに縛り付けられ、監視の網を“平和”と呼ぶのか」
ゼイドの呟きが流れる中、観覧車のゴンドラは静かに回り続けていた。
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