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第55話:未来娯楽博覧会
夏の陽射しに包まれた巨大ドーム会場。入口には「未来娯楽博覧会 協賛 ― 娯楽も安心の未来をつくる」と大きな横断幕が掲げられていた。
水色のシャツに短パン姿のまひろは、緑色のリストバンド端末を腕に巻いて列に並んでいた。隣にはラベンダー色のブラウスにベージュのスカートを着たユナ。イヤリングを光らせながら、うれしそうに会場を見渡す。
「え〜♡ 未来娯楽博覧会って、今年はいちばんのイベントなんだよねぇ」
彼女の声に、まひろの瞳は無垢に輝いた。
会場に入ると、まばゆい光と音楽が溢れていた。
巨大スクリーンには「安心協賛VR体験ゾーン」「未来音楽シアター」「協賛スポーツパーク」の文字。
まひろはカナルーン入力端末に手を伸ばした。
「メニュー → ブイアール イチマイ → カイケイ → ケッサイ → オワリ」
ピッと音が鳴り、ゴーグルが自動で貸し出された。
ゴーグルをつけると、画面に「安心ラベル」が表示され、体験の最初に必ず「安心の未来を楽しもう」という映像が流れる仕組みになっていた。
ユナはヘッドホンを耳にかけながら、ふんわり笑った。
「え〜♡ 安心ラベルがあると、遊んでるときも守られてる感じするでしょ?」
スポーツ展示では、子どもたちが走るとスコアが自動記録され「幸福度ポイント安心イチ」と画面に表示される。
音楽シアターでは、参加者が声を合わせて「アンズイ〜!」と叫ぶことで曲が終わる演出があり、観客が笑顔で唱和していた。
スーパーのCMと同じように、娯楽も「協賛=安心」というイメージが徹底的に刷り込まれていた。
だが会場の天井に取り付けられたアンテナとカメラは、来場者一人ひとりのデータをリアルタイムで収集していた。
何を体験し、どれくらい楽しんだか、誰と来場したかまでも記録され、ネット軍の監視網へと送られていく。
暗い部屋。
緑のフーディを羽織ったゼイドが、複数のモニターに映し出される博覧会の光景を眺めていた。
「娯楽さえも、安心という名で縛るのか……。
人が笑うその裏で、記録は縛りとなり、未来は監視に閉じられていく」
モニターの中では、まひろやユナ、そして無数の市民が「安心ラベル」と共に笑顔を見せ続けていた。