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「初めまして。立川音大で響野先生にお世話になった九條瑠衣と申します。本日はお招き頂き、ありがとうございます。そして、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。二人の雰囲気が凄くいい感じだから、てっきり恋人同士なのかと思いました」
圭に続き、隣に並んでいる園田真理子は、ぎこちない表情で『ありがとうございます』と呟くように返事をする。
(あれ……奥様になる方…………何だか浮かない顔……してる?)
瑠衣はそう感じたが口に出さず、心のポケットにしまい込んだ。
考え事をしている瑠衣を尻目に、副社長の圭が侑に『せっかく久しぶりに会ったんだ』と前置きして言葉を続けた。
「もう夕方だし、少し早いけど四人で食事しないか?」
「…………いいのか?」
「もちろんさ。九條さんに、レッスン時の侑の話も聞いてみたいしな」
圭が屈託のない笑みを浮かべながら言うと、侑が『お前、余計な事は言うなよ?』と、釘を刺すような鋭利な視線を瑠衣に向ける。
「なら、せっかくの機会だ。ご一緒させてもらおう。九條、いいな?」
「はい。是非」
四人はエレベーターへ向かい、高層階のレストランフロアへと上昇させた。
圭に案内された和風創作料理のレストランは、店の奥に広がるガラス張りの大きな窓には新宿の夜景を間近で楽しめ、ダークブラウンを基調とした店内は、所々木材が使用されており、木の温もりを感じる落ち着いた雰囲気。
店内の雰囲気だけでなく、和をベースとした創作料理は味も盛り付けも素晴らしく、目と舌で愉しめるものだった。
久々の再会に喜ぶ侑と圭に対し、この状況にどうしていいのか迷う瑠衣と、曖昧に笑みを見せている真理子。
四人で乾杯し、男二人は懐かしさもあり、会話の花が咲いている。
「そういえば、侑と九條さんは師弟関係なんですよね? 師匠としての響野侑は、弟子の九條さんから見たら、どんな先生なんですか?」
圭からの質問に、表情筋が引き攣るのを感じた瑠衣は、半ば困惑しながら苦笑してみせる。
「響野先生は……」
そんな瑠衣の様子を、冷酷な表情で見やる恩師の眼差しが痛い。
「ひたすら厳しくて冷徹で怖い先生でした」
瑠衣は、眉根に皺を刻ませながら圧を掛けてくる師匠の前でそう言ってのけてみたが、横で侑がこめかみ辺りに青筋を立てたような気がした。