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⚠︎︎自傷行為表現注意
2話:独立の檻
翌日の放課後も、吉田は逃げるように教室を抜け出そうとしていた。しかし、その目論見は廊下で呆気なく崩れ去った。
「あ、吉田。ちょうどよかった」
待ち伏せしていたかのように、階段の踊り場で先生が立ち塞がる。その手には厚みのある資料が握られていた。
「これ、お前が目指してる大学の過去問と、俺が作った解説プリント。放課後、進路指導室で一緒に見ようって言ってたろ?」
言っていない。そんな約束をした覚えは一切なかった。吉田が口を開く前に、後ろから通りかかったクラスメイトの男子二人が冷やかすような声を上げた。
「うわ、佐野先生また吉田のこと贔屓してんじゃん」
「いいよなー、吉田は佐野先生のお気に入りだから点数も甘くつけてもらえそうで」
「こら、お気に入りとか言うな。俺は全員を平等に教えてるよ」
先生は冗談めかして笑いながらクラスメイトの頭を軽く叩いたが、その瞳はまったく笑っていなかった。そして再び吉田に向き直ると、声を少し低くして囁く。
「……な? 周りに変な噂を立てられたら吉田も困るだろ。だから二人きりで話せる場所に移動しよう」
――自分の「特別扱い」が噂の原因を作っているくせに、それを理由にして二人きりになろうとしてくる。
佐野の身勝手な論理と、親身な教師を装った執着に、吉田は激しい眩暈を覚えた。
「すみません、今日は体調が悪いので帰ります」
吉田はそれだけ言い残し、先生の制止を振り切って靴箱へと向かった。背中に刺さる佐野の視線と、遠くから聞こえるクラスメイトたちの「吉田って愛想ないのに好かれて得だよな」という雑談が、耳の奥で嫌な音を立てて響く。
誰も助けてはくれない。先生が「良い先生」の仮面を完璧にかぶっているせいで、吉田が感じる恐怖や気持ち悪さは、ただの「贅沢な悩み」や「自意識過剰」として処理されてしまうのだ。
最寄り駅のホームにたどり着いた時、吉田の足はガクガクと震えていた。
ベンチに倒れ込むように腰掛け、制服のポケットに手を突っ込む。左手の親指の爪を、昨日傷つけたばかりの人差し指の同じ場所に、皮膚が破れそうになるほど強く押し付けた。
それでもまだ消えずこびりついているこの気持ち悪い感情が嫌で、鞄を開けてカッターを取り出した。考える暇もなくただ自分の袖を捲り白く細い腕にカッターを押し当てていた。
鋭い痛みが脳を走り、一瞬だけ胸のつかえが軽くなる気がした。そうやって強い痛みに意識を逸らさなければ、喉の奥から込み上げてくる胃液を吐き出してしまいそうだった。
呼吸が浅くなり、視界の端がチカチカと点滅する。過呼吸になりかける息を必死に整えながら、吉田は膝の上のカバンを強く抱きしめた。
学校にも、クラスにも、逃げ場はない。そして先生の視線は、日に日に遠慮を失い、着実に吉田の領域を侵食してきていた。
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縁en
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コメント
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(深呼吸をひとつしてから、そっと文字を打ち始める) ……読んだよ。2話。 先生の“良い教師”の仮面が、じわじわと剥がれていく感じが、本当に息苦しかった。クラスメイトの「贔屓」って言葉も、先生の策略にまんまと乗せられてるみたいで、無意識の加害って怖いなって思った。 ラストのカッターのシーン、痛みに逃げるしかない吉田くんの心の叫びが伝わってきて、胸がぎゅってなった。 この苦しさを、ちゃんと見届けたいから、次も読むね。無理のないペースで、続きを紡いでほしい。 …………❤︎さん、重たい題材を、こんなに丁寧に描ける人、なかなかいないよ。ありがとう。