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――試験終了間際。
霧のように漂う霊気の中、夜道遥(よみち はるか)と赤花梨亜(あかばな りあ)は肩を並べ、疲労を滲ませながらも立っていた。
「……この異常な霊、誰かに伝えないといけないな」
遥が静かに言う。
「うん……校長先生に。こんな強い霊、本来いるはずない」
梨亜も頷いた。その瞳には、戦いの最中でも消えなかった冷静さがあった。
その時、空を切り裂くように現れたのはリリファン――アカデミーの校長の使い霊。
優雅に羽ばたくその姿が、「試験終了」の合図だった。
他の生徒たちも続々と霊退治を終え、チームごとに森から引き上げていく。
奏太も別の場所から戻り、遥たちと目を合わせた。
「いやー、死ぬかと思ったわ……って、遥も梨亜もすごすぎだろ、お前ら……」
へとへとになりながら、いつもの調子で笑う奏太に、遥は小さく息をついた。
静かに、森から生徒たちの気配が消えていく。
……そして誰もいなくなった森の奥。
誰にも届かない場所で、声だけがふわりと響く。
「あーあ、倒されちゃったか。まぁいっか」
「でも……面白い人たちを見つけたし」
「またね、月と桜」
誰もいない闇の奥に、不気味な余韻だけが残った。
試験を終えた遥たちは、ようやく寮に戻る。
男子寮・女子寮に分かれてはいるが、食堂や談話室は共用。そこは思ったより明るく、温かい空間だった。
「やっば!風呂でけぇ! ご飯うまっ! シュワンアカデミー最高かよ!」
奏太が誰よりも元気を取り戻し、はしゃいでいた。
遥は静かに荷物を整理している。
梨亜はソファで本を読んでいたが、遥が翠珠(すず)を呼び出してじゃれているのを見て、ふっと微笑む。
「可愛いね、その子」
梨亜が静かに声をかける。
「……そうか?」
遥は少し照れたように、翠珠の頭を撫でる。
その後、食堂で3人が集まる。
「なー、遥」
奏太が口を開く。
「お前ら、マジで“月と桜”って感じだったな。霊力、桁違いだし」
梨亜は少し驚き、そして静かに微笑む。
「……ちょっと、照れるね」
遥もふっと目を細め、
「……悪くないかもな」
と静かに言った。
少しずつ、3人の距離が縮まっていく。
その夜。
寮の窓から、遥は静かに森を見つめる。
「……なんだったんだ、あれ」
胸に残る違和感を抱えたまま、夜は静かに、更けていく。
森の奥で、誰にも気づかれず、闇がふわりと笑った気がした。
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