第1話そんなある日だった。僕は人さらいに会い、馬車の中で小刻みに震えていた。僕の感情は恐怖しかなかった。これからどこに行くのだろう。何をされるのだろう。いつまでもその恐怖と緊張は離れなかった。馬車が出発してからしばらくたち、いきなりピタッととまった。もう目的地に着いたのかと絶望したが、人そらいの男たちは何やら言い争いをして小さな叫びの後、静かになった。なんの音も聞こえないのが逆に怖くなり僕は耳を塞いで目を閉じた。しばらくして目を開けるとそこにはじいちゃんの背中があった。僕が目を覚ましたことに気づいたじいちゃんは、
「よく頑張った。」
と褒めてくれた。周りを見てみると気絶している人攫いの男と僕が乗っていたであろう馬車があった。その瞬間ぼくはじいちゃんが助けてくれたのだと悟った。それと同時に驚きもした。八十近くの老体であるじいちゃんがどうやって若く強そうな男性を倒したんだろう。気になった僕は
「…ねえ、じいちゃん」
「なんだ。」
「じいちゃんはなんでそんなに強いの?」
「…なぜそう思った。」
「だってもうこんなおじいちゃんなのに、若い人に勝つなんて不思議だよ。」
「…お前も強くなりたいか?」
「!うん。強くなりたい。」
「そうか。」
そのまま時はゆっくりすぎ、僕たちの住んでいる家に着いた。
僕を背中から下ろすとき
「早朝の午の刻(5時)に中庭に来い。」
とだけ言い自分の部屋に戻っていった。
朝起きて、中庭に行くとそこにはじいちゃんがいた。