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第29話:世界樹、再び目を覚ます

都市樹――それは**世界樹(せかいじゅ)**と呼ばれたことがあった。

だが、いつしかその名は記録から消え、

操作される器官のように、“命令の器”と化していった。


命令歌が響かず、コードも遮断され、

都市はただの“機構”になっていた。

けれど今、そこに――変化が起きようとしていた。





世界樹の最上層。

かつて誰も登ったことのない、封枝冠域(ふうしかんいき)。

そこに降り立ったのは、シエナだった。


ミント色の羽は陽のない光に淡く染まり、

透明な尾羽は、空気の粒子をとらえて細かく揺れていた。

肩のウタコクシは、風の強さに羽を閉じながらも、

微かに――心臓のような律動を感じ取っていた。





世界樹の冠には、巨大な“枝核”があった。

かつて棲歌の原型が生まれたとされる場所。

そこにはもう誰も命令を送らない。

音も記録も届かない、沈黙の空洞。


だが、そこに立ったとき――

世界樹が、ゆっくりと“呼吸を始めた”。





根の奥から、幹の中を通り、

枝先まで届く振動。

それは都市が自ら奏でる律。

命令ではない、世界樹自身の“棲む音”。





「……これは、“誰にも使われなかった音”じゃない。

“もともとここにあった音”だ」


そう言ったのは、後から冠域に追いついたルフォだった。

彼の濃い緑の羽根は、風にまかせてやや乱れていたが、

その瞳はかつてないほど、静かで澄んでいた。


彼の尾羽が、自発的に光を反射する。

それに応じるように、枝核がやわらかく震える。





シエナが、そっと尾脂腺から香りを送る。

それは「わたしは、ここにいる」という確信の香り。

柔らかな苔と、熟した実の皮、ほんのわずかに花の名残を含んだ匂い。


その瞬間――

世界樹が“音”を返した。





それは歌ではない。

命令でもない。

だが、確かに“在り方”としての呼応だった。





根が熱を帯び、

葉が音を拾い、

枝が揺れる。

まるで**“目覚める”かのように**、世界樹全体が呼吸を始めた。





命令しない棲み方。

歌わない意思。

記録しない都市。

それらすべてが、この瞬間に繋がっていた。





世界樹は、もう命令を待っていなかった。

代わりに、“棲む者の存在”に応じて動く新たな器官へと変わりつつあった。

奏樹―命を歌うものたち―

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