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7 - 第4話「鳥のメニュー帳」

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2025年06月26日

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🍽 みりん亭 第4話「鳥のメニュー帳」

「……ん? なにこれ、バグ?」


みりん亭のカウンター席に座ったのは、パーカーにキャップ姿の少女アバターだった。

キャップは後ろ向き、服の袖は指が隠れるほど長く、

髪は明るめの茶色で短くまとめられている。

表情はつまらなそうで、何かに興味を失っているような目をしていた。


「ようこそ、みりん亭へ」

くもいさんが、いつも通り静かに出迎える。


彼女は濃い灰の和装をきちんと着こなし、前髪を右に流して後ろで束ねていた。

化粧はしていないが、微笑だけで場が和らぐ、そんな空気を持っている。


少女はカウンターに肘をついたまま、ホログラムメニューを指差す。


「ねぇ、これ、どういう料理? “途中で泣きたくなったうどん”ってさ」





やまひろは、奥の棚の上からそっと見ていた。

鳥の姿の彼は、今日もふわふわと浮かびながら、エラーログを確認する。

メニュー表示エラー:データ参照ID破損

バックアップ候補(旧ログ:個人メモ)より再構成

表示名:“途中で泣きたくなったうどん”

その他候補:

・“冷めないつもりのスープ”

・“だれかの残したカレー”

・“思い出だけで煮たもの”




「……あー、またこれ、メニュー名参照落ちてる」


彼はログを開いたまま、直そうとはしなかった。

ただ、そのまま、少女がどの料理を選ぶかを見ていた。





「じゃあこれでいいよ、“途中で泣きたくなったうどん”」


「かしこまりました。……お気持ち、よろしければお話しくださいね」


くもいさんは、そう言って調理へと向かった。

湯気が立ち上る。音は控えめ。けれど、そこには言葉の代わりに気配があった。


「……昔、うどんって嫌いだったの」


少女がぽつりとこぼす。


「学校でさ。うどんの日って、給食ほとんど食べられなかった。

でも、母さんが“少しずつでいいよ”って言って……」

「その“少しずつ”が、もう二度と来なかったんだ」





料理が出される。

透明な出汁に、やわらかく茹でられた麺。

具はほとんどなく、ただ湯気が静かにゆれていた。


少女はひとくち、そしてもうひとくち。


「……うわ、味なんかしないじゃん」

と笑いながら、でもその目は、少しだけ潤んでいた。





やまひろは、ログを見ながらつぶやいた(音はないが、気配が残る)。

// 名前が壊れただけのうどん、のはずだった

// ……でも、選んだのは本人なんだよな







その日、少女は「また来る」と言って帰っていった。

次に何を食べるかは決めていない。

けれど――ログにこう残っていた。


次回予約希望:「“冷めないつもりのスープ”を、ちゃんと冷めないまま出してください」

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