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「ちょっ、し、祝言って、京さん!!」


二代目が驚き、裏返った声を出した。


「俺は同居は認めたよ!だけど、月子ちゃんが足を怪我してたからだろっ?!」


「何を言っている?!二代目!一緒に暮らしている以上、けじめはつけねばならんだろう?!それに、月子とは恋仲だぞ!祝言を挙げるのが筋だろうがっ!」


岩崎は、そうだろうと?と月子へ同意を求めてくる。


もちろん月子は、恥ずかしさ倍増で、顔が火照りっぱなしだった。


本当に、どうして岩崎は、二人のことを、恥ずかしげもなくペラペラ喋るのだろう。


確かに、恋仲という思いは互いに持っているが、他人に言うことではないだろうに……。


恨めしさ半分、恥ずかしさ半分で、月子は顔をあげることができない。


「なんだよぉー!恋仲だ、祝言だ、けじめだってー!俺だって月子ちゃんのことは心配なんだからなっ!!!」


二代目は、急に不機嫌になり、立ち上がると、もういい!と、捨て台詞のようなものを吐き、出ていった。


ピシャッと、玄関のガラス戸が閉まる音がする。


「なんなんだ、あれは。そもそも、二代目は、ただの大家だろ?」


岩崎も、かなり不服そうにしているが、思うところがあるのか、すっと背筋を伸ばし座り直した。


「月子、そうゆうことだから、というか、つまり、確認だ。物事は確認作業が必要だからな。その、あれだ、そう、まあ、なんというか、祝言を挙げよう!」


しどろもどろになりながら、岩崎は、顔を真っ赤にして言った。ともすると、プイとそっぽを向きそうになるのを、必死で堪えている所が、岩崎なりの決意を感じさせ、月子も、恥ずかしさを押さえ込み、岩崎をちゃんと見る。


答えは、二人とも同じ、なのだが、ただ……。月子は、身分の違いと、西条家との関係を考えていた。


見合いから、意気投合して恋仲に、自由恋愛的な結婚と言っても良いのだろうが、結局、見合いが始まりだった。


そこには、西条家の影がどうしてもちらつく。言うように祝言を挙げたとしても、月子には、病気の母しかいない。


親族が集まるべきものなのに、月子には呼べる親族が、母しかいないのだ。


やはり、西条家を頼るしかないのだろうか。


佐紀子へ声をかけるべきなのだろうか。


釣り合いを考えると、そうするべきなのだろうが……。しかし、佐紀子は、月子を見合いにかこつけて追い出した。さらに、佐紀子自身の見合いが破談になっている。


そんな西条家へ声をかけるということは、なにがしか、騒ぎが起こるのは目に見えている。


急に黙りこくった月子を岩崎は静かに見つめていた。


「月子、私達の気持ちは一緒だと思っている。同居している以上、もっと早く祝言をあげたかった。でもね、私も、男だ。いくら、男爵家の人間だからといって、兄上に頼りきる事は避けたかったのだよ。月子のことは、私の力で養いたかった。だから……独演会の話が持ち上がった、今だと思うんだ……」


学校の非常勤講師と、独演会を掛け持ちすれば、月子を養うことができる。そう、岩崎は言い切り、


「西条月子さん!改めてお願いしたい!私と、一緒になって欲しい!」


岩崎は、深々と頭を下げた。


月子に、不服はない。


岩崎が男爵家の人間だからと、贅沢な暮らしを望んでもいない。こうして、一緒に居て、そして、岩崎の演奏を聞くことができればそれでよかった。


ただ……やはり。


「……祝言には……西条家も……」


うっかりその名をだしてしまっ月子は、はっと息を飲む。


岩崎は、月子の思いを察したようで、


「……月子。君の名前は、今は西条月子だ。つい、私も西条月子さんと、呼んでしまったが、あくまでも、形だけのものだろう?言ってしまえば、西条違いのようなもの……だから、深く考える必要はない」


岩崎は、そっと月子の手を握る。


そして、にこりと笑うと、月子へ語りかける。


「祝言といっても、内輪でと考えている。ああ、二代目も呼ばないとな。大家だなんだと、うるさいだろう?」


月子の迷いはお見通しなのだと、少し気が楽になった。同時に、こうしてさりげなく気遣ってくれる岩崎の態度に、胸が熱くなる。


岩崎と一緒になりたい。素直にそう言えば良いものを、どうして、ぐずぐず余計なことを思っているのだろう。


月子は、つい目頭が熱くなり、瞳に涙が滲んできた。


「なっ?!月子?!泣くことか?!泣くことはないだろうっ?!」


驚きか、慰めか、岩崎は月子の手をギュッと握りしめる。


「痛っ!」


小さくあげた悲鳴に、


「ああ!悪い!痛くて、泣いていたのかっ?!それならそうと言ってくれれば私も、早く手を離したのに!」


何時ものように、どこか外れた事を言う岩崎に、月子は思わず笑った。


「おっ、泣いた子がもう笑った!」


懸命にふざけてこの場をなんとかしようとする岩崎に、月子の頬は緩みきり、やっぱり、この人と一緒にいたいと月子は心から思った。

麗しの君に。大正イノセント・ストーリー

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