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和樹の幸せには三か月を過ぎる頃には小さな不穏が走っていた
百合が夜のアルバイトを始めたからだ、それは可愛らしいカフェの店員さんとかなら和樹も文句をいわなかったが、大学の派手な友人の紹介のキャバクラだった
「しかたがないのよ、あなたと違って私は父の仕送りも少ないから生活費を稼がなきゃならないのよ」
「アルバイトならそこらへんのファミレスのウエイトレスでいいじゃないか」
「今度から学部の課題が多くて夜遅くまで学校に残る日も増えてくるわ、なるべく時給の高い所で働きたいの」
「そんな金持ちのおっさんばかり来る所、心配で嫌だよ」
和樹は声を荒げたが、心のどこかで自分の無力さを噛みしめていた
「わかってちょうだい、ダーリン、せっかくお友達の美香ちゃんが私が生活費に困っているからって紹介してくれたのよ、顔を潰したくないの」
百合の言葉は理路整然としていたが、その裏に自分の生活が安定しない不安で、隠された必死さが和樹の胸を締め付けた
和樹は百合に何もしてやれない自分が悔しかった、たしかに今自分は学生の身だ、子育てを放棄している父から貰っているこずかいは毎月現金で10万だった
それでも遊び過ぎた月末にはなくなっている時もある、そんな時は家に帰れば家政婦の作った食事があるし、その他にも父の限度額は抑えられてはいるがクレジットカードは自由に使えた、なので彼女がいなかった時の和樹はとくには困らなかった
しかし百合を養ってやれるには少なすぎた
百合はいったい毎月いくらあったらアルバイトを辞めるのだろう・・・
大嫌いな父のすねかじりの自分がほとほと嫌になって苛立った
ある夜、和樹は我慢の限界を迎えた、百合がキャバクラのバイトに明け暮れ、自分を置き去りにしていることに耐えられなくなったからだ
彼は一つの決意を胸に、客として百合の働く店へと足を踏み入れた
百合の言う通り高級クラブの内装はとても豪華で店内はまるで別世界だった、薄暗い照明の下、シャンデリアがキラキラして、酒を注ぐ女達の笑い声とグラスのぶつかる音が響き合う・・・・
壁にはけばけばしい装飾が施され、鏡張りの柱が妖しく光を反射していた
客は金を持て余している男しかいなく、彼らの視線は、獲物を品定めするように女達を追いかける、時折、下卑た笑い声が漏れる、そんな場所に百合がいた
「まぁ!和樹!」
「ちょっと・・・お客で来てみたんだ」
そこにはハリウッド・スターのような百合がいた、彼女はとても美しかった、No1をはれるぐらいだと思った、和樹の前ではいつもほぼすっぴんに近いのに、アイラインやつけまつげで彩られた彼女の顔は目鼻立ちがはっきりし、着ているドレスはスパンコールでキラキラしていた
それに胸の谷間が丸見えだ、なんだこの服は?半分胸がこぼれているようなものだし、スカートも短すぎる、座ってハンカチで三角ゾーンを隠しているけど、こんな服、「どうぞ胸も股間も触ってください」と言っているようなものだった
その夜付き合って初めて二人は大喧嘩した
「君は金のためにあんないやらしい服を着て、おっさんに媚を売るのか?」
和樹の言葉は鋭く、まるで刃のように百合を切りつけた、泣きながら百合も負けじと反撃した
「りっぱなアルバイトよ!そんな風に考えるあなたがいやらしいのよ」
彼女の声は震え、涙が頬を伝ったが、その瞳には和樹が反対すればするほど彼女は意固地になった
喧嘩の後、和樹は自分の無力さを噛みしめた
百合を救いたい、あのいかがわしい場所から引き離したい、だが今の自分には何の力もない、百合は今夜もあの店で知らない男達に笑顔を振りまいているのだろうか
このままでは彼女の心は和樹から離れていくのではないか・・・
そんな不安が和樹の胸を締め付けた