テラーノベル
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和樹の家は、芦屋の六麓荘町の頂に君臨する壮麗な邸宅、「葦翠館」・・・その敷地内の別邸にある父の書斎は、重厚なマホガニーの机と革張りの椅子が並ぶ、威圧的な空間だった
本棚には分厚い蔵書が並び、窓の外には広大な庭が広がっている、だが、その静けさは嵐の前のようだった
父は書類を手にソファに腰掛け、デカンタからウィスキーを継いでいた、40歳の年齢からしても父はとても若々しくハンサムだった
しかしここ最近やつれたような気がする、襟足が伸びて襟に付いてる黒髪は白髪が少し目立ち、逞しい体つきはまだ衰えをしらない
父の深酒を家政婦からよく聞いていた、しかし自分が注意なんか出来る訳もなかった、書斎に入って来た和樹を見上げることもなく、父はウィスキーを飲みながらページをめくっていた
「父さん・・・話があるんだ・・・」
和樹の声は震え、喉が締め付けられるようだった
「お前か、なんだ?」
康夫の声は冷たく、まるで部下に対するような無関心さだった
「僕・・・大学をやめて父さんの所で働かせてもらいたいんだ」
和樹は拳を握りしめ、必死に言葉を絞り出した
「どうしてまた?」
父は書類から目を離さず、鼻で笑うような口調だった
「結婚したい娘がいるんだ! その娘を養ってやりたいんだ!」
和樹の声は熱を帯びて書斎の重い空気を切り裂いた、父はようやく顔を上げ、和樹を冷ややかな目で見た
「お前が? 大学を中退して? そんなのは高卒より質が悪い、話にならないな」
その言葉は、まるで氷の刃のように冷たく、和樹の希望を切り裂いた
「理解してくれないのかい?父さんだって母さんと学生結婚だったんだろ?」
和樹は声を張り上げ、父の過去を突きつけた、しかし父は虚ろな目で和樹をじっとり睨みつけて言った
「だから今こうして後悔しているんだ、出直してこい」
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