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第七章 交わる運命
第四話 満月前夜②
――ドン!!
再び扉が激しく揺れた。
宿屋の古い壁まで震えるほどの衝撃。
ジントが頭を抱え、強く目を瞑る。
「……っ、やだ……っ」
掠れた声。
呼吸が乱れている。
黒い瘴気が、じわじわと部屋を満たしていく。
ダイチは一歩前へ出る。
庇うみたいに、完全にジントを背へ隠した。
「開けろ」
さっきより低い声。
感情のない、冷たい声だった。
「抵抗するなら、実力を行使する」
その瞬間。
ジントの肩が大きく震える。
その声。
その気配。
何かが、身体の奥で拒絶しているみたいだった。
「……ダイチ」
弱々しい声。
けれど黒い瞳の奥で、何か別のものが揺れ始める。
ダイチは舌打ちした。
……最悪だ。
ジントが限界なのは、見れば分かる。
満月前夜。
瘴気。
教会。
全部が重なっている。
「……ジント」
ダイチは振り返らないまま、低く言った。
「オレから離れんな」
拳へ雷が走る。
バチ、と青白い光が弾けた。
その時、扉の向こう側で、低い詠唱の声が響く。
次の瞬間。
――バキィン!!!
扉が内側へ吹き飛んだ。
木片が舞う。
冷たい空気が、一気に部屋へ流れ込んできた。
白い外套を纏った男達。
その胸元には、金色の太陽紋。
先頭の男が部屋の奥を見て、目を細めた。
黒髪。
黒眼。
そして、部屋中へ滲む異常な瘴気。
「……見つけた」
低い呟き。
男達が一斉に魔道具を構える。
埋め込まれた魔石が、淡く発光した。
空気が張り詰める。
ジントが苦しそうに息を漏らす。
「っ……ぁ……」
身体の奥が、軋むように痛む。
男の一人が冷たく告げる。
「……月蝕の子」
その呼び方に、ジントの瞳が揺れた。
「太陽教会の名において、お前を拘束する」
ダイチの顔色が変わる。
「……は?」
空気が凍る。
拘束。
その言葉の意味を、ダイチは瞬時に理解した。
連れて行かれる。
もう二度と、普通には戻れない。
「……ふざけんな……!」
低い声が落ちる。
ダイチの周囲で、雷光が激しく弾けた。
「誰が渡すかよ!!」
その瞬間。
男達が一斉に動く。
「確保しろ!!」
「触んなァッ!!」
ダイチが踏み込む。
雷を纏った拳が、真正面の男を吹き飛ばした。
けれど、
「甘い」
別の男が、静かに魔道具を掲げる。
緑色の魔石が眩く光った。
次の瞬間。
空気が歪む。
「っ――!?」
見えない衝撃が、真正面からダイチを叩きつけた。
――ドォン!!
身体が壁へ激突する。
家具が砕け、床へ血が散った。
「……っ、が……っ!」
体が崩れ落ちる。
「ダイチっ!!」
ジントの声が悲鳴みたいに響いた。
その瞬間。
ーーぶわり、と部屋中の影が揺れた。
黒い瘴気が、爆発するみたいに溢れ出す。
教会の男達が息を呑む。
床を這う影。
蠢く闇。
まるで、部屋そのものが生き物になって唸っているようだった。
ジントがゆっくり顔を上げる。
黒曜石みたいな瞳。
けれどその奥には、深い苦しみが滲んでいた。
怒り。
恐怖。
そして、
大切なものを傷つけられた痛み。
「……よくも」
低い声。
「……よくも、ダイチを……!!」
次の瞬間、影が一気に膨れ上がった。
「っ!?」
教会の男達が息を呑む。
壁の影。
床の闇。
月明かりの届かない場所すべてが、
まるで意思を持ったように蠢き始める。
黒い瘴気が、ジントの周りに嵐みたいに吹き荒れた。
「抑えろ!!」
「魔道具を――」
言い終わる前だった。
影が男の足へ絡みつく。
「なっ――!?」
一瞬で床へ引き倒された。
そして別の男の腕へも、黒い影が絡みつく。
「ぐぁっ!!」
魔道具が床へ落ち、金色の光が激しく明滅した。
ジントの周囲だけ、空気が異様に重い。
息が苦しい。
冷たい。
恐ろしい。
それなのに、悲しかった。
「う……ぁ……っ」
ジント自身も、苦しそうに息を漏らす。
暴走している。
けれど完全には飲まれていない。
まるで、必死に何かを抑え込もうとしているようだった。
その時。
――キィン。
澄んだ音が、廊下の奥から響いた。
教会の男達が一斉に振り返る。
「誰だ!」
次の瞬間、鋭い冷気が開け放たれた扉から一気に流れ込んだ。
――バキィッ!!
床を這っていた影の一部が、氷に閉じ込められる。
教会の男達が目を見開いた。
「氷……!?」
そこへ現れたのは、銀髪の青年だった。
冷たい雪のような髪。
銀色の瞳。
張り詰めた空気を纏った、美しい青年。
その隣には、赤い髪の青年が立っている。
「……うわ」
シュンタが顔を引きつらせる。
「なんやこれ……」
視線の先。
黒い瘴気。
蠢く影。
倒れた教会の人間。
壁際で血を流し、倒れる青髪の青年。
そして、その中心に立つ
黒髪黒眼の青年。
月光を浴びたその姿は、あまりにも異質だった。
美しく。
恐ろしく。
まるで夜の闇そのもの。
「……これが」
掠れた声。
「月蝕の子……」
ジュウタロウが、静かに目を見開いた。
コメント
1件
うわあ…第13話、めちゃくちゃ緊張感やばかったです…!ダイチがジントを庇って吹き飛ばされるシーン、胸が痛すぎて“っ…!”って声出ました。それでジントの瘴気が暴走して、影が意思持って動く描写が怖くてでも美しくて…。最後にジュウタロウたちが現れて、これからどうなるのか続きが気になりすぎます!月光浴びたジントの“夜の闇そのもの”って表現、ゾクゾクしました…🥀