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「そっか。じゃ、沙耶チャン、これからどうするの?」
「今までは天魔さんに頼ることばかり考えていましたが、自分でなんとかしてみようと思います。夫への復讐のために、証拠を自分で集めて、社会的に抹殺する方法なんかもしっかり考えてみようって。それに、脚本書いてシナリオ大賞獲ってあいつを悔しがらせます。自分で、うんと面白いストーリー考えますから!」
神威さんは私の顔をじっと見つめる。その視線は鋭く、いつものように穏やかではなかった。
「それ、本気?」
「はい! もうこれ以上、なにもしないで夫に負けたくない。だから、天魔さんがダメって聞いて、踏ん切りがつきました。これからは自分で頑張ります!」
高らかに宣言した。
私がそう言った瞬間、神威さんは拍手をしてくれた。そしてカウンター越しに身を乗り出し、私の目をまっすぐ見据えた。
「沙耶チャン。その言葉、ずっと待ってたよ」
「……え?」
私は瞬きを忘れ、彼を凝視する。神威さんは静かに微笑むと、ゆっくりと黒いシャツの袖をまくった。その腕に刻まれた刺青が、薄暗いバーの照明に照らされ鮮明に浮かび上がった。
「どういうことですか?」
神威さんは唇の端を上げ、小さく笑った。「天魔は、最初からここにいるんだ」
息を飲んだ。
「……まさか」
彼は軽く首を傾げてみせた。いたずらな目で私を見つめている。
「神威さんが……天魔ってことですか?」
「――そういうこと」
自分が天魔と名乗った神威さんはニヤリと笑った。バーの妖しげな光に照らされ、不敵な笑みを浮かべる彼がとても魅力的に見えた。
「俺は、沙耶チャンがどこまで本気か、本当に復讐する覚悟があるのか、それをずっと見極めてたんだ」
何度もこのバーに通い、何度も神威さんと話をしてきた。彼が天魔だったなんて、まったく考えてもいなかった。
でも、今振り返ってみれば、確かに彼の言葉には常に含みがあった。なぜ気づかなかったのだろう。
「ごめんね、試すようなことをして。でもね、俺の仕事は簡単に引き受けられるほど甘くない。それこそ、人生を賭けてでも成し遂げようとする強い心が必要なんだ。じゃなきゃ途中でブレる。徹底的に相手を追い詰めるには、依頼人にもそれ相応の覚悟がいる。つまらない依頼は受けないから」
彼は軽く肩をすくめた。「君にその覚悟があるかどうか、確かめる必要があった」
私は小さく息を吐き、まっすぐに神威さんを見つめ返した。
「あります。覚悟はもうとっくに決まっています。夫に復讐をするためなら、どんなことだってやります!」
神威さん――いや、天魔さんと呼ぶべきか――は満足そうに目を細めた。
「そう言ってくれて嬉しいよ。じゃあ、君のその覚悟に応えてあげる」
彼はバーカウンターの向こうで、私に手を差し出した。
「改めてよろしく。沙耶チャン」
私はその手を迷いなく握りしめた途端、胸に興奮が広がった。
ようやく見つけた天魔。これから私の相棒になるべき男性。
「これからどうしたらいいでしょう? あと、あなたのことをなんと呼べば?」
そう尋ねると、彼はゆっくり私の手を放し、落ち着いた表情で微笑んだ。「天魔でいいよ」
「あ、はい。じゃあ、天魔さん」
「今から俺たちは、君のパートナーの人生を破滅させる相棒だ。天魔でいい。俺も君のことを沙耶と呼ぶし、敬語もいらない」
「わ、わかったわ、天魔。よろしく」
「よし。じゃあ、作戦会議と行こう。奥のボックスに来て」
私は彼についていった。手狭なバーの空間に小さなボックス席がある。そこに並んで座った。
「相手を本気で抹殺するには――なにも本当に殺すわけじゃないから――まずは周到な準備が必要だ」
確かに。社会的に抹殺するとは言ったけれど、本当に殺したりしたらこっちが捕まってしまう。
そうならない所で復讐してくれるのね。
いや、復讐してくれるって考えはだめ。私がこの手で鉄槌を下す覚悟をしないと!
「君の夫……涼二だっけ? 彼がどんな男なのか、まずは徹底的に調べる必要がある。好み、趣味、タイプ……SNSに載せてる些細なことまで全て」
私は頷き、バッグから自分なりにまとめたノートを取り出した。
「浮気を疑った時に作ったの。涼二の好みのタイプ、趣味、いつも使っているSNS、最近よく行くお店の情報もあるわ。浮気相手とよく逢引しているホテルとかその辺も。愛人のデータもね」
天魔はそのノートを受け取り、ページをゆっくりめくった。端正な顔立ちの彼が資料を読み込んでいる様子は、どこか不思議な魅力に溢れている。
「よく調べてきたね。でも、これだけじゃ足りないな」
彼の口調は優しくも厳しかった。
「もっと深く、もっと細かく。例えば、好きな食べ物、過去に行ったデートスポット、SNSでのやり取りのクセ、言葉遣い、好きな音楽や映画の趣味まで、どんな些細なことでもいい。そういう情報を集めて、自然に彼に近づく準備を整えないと」
「夫に接近するの?」
天魔は軽く微笑んで頷いた。
「そう。相手を信用させて近づくんだ」
「信用……なぜそんなことを?」
「決まってるだろう。俺が沙耶の旦那を堕とすからだよ」
ごくり、と生唾を飲み込んだ。
「あの……まさかとは思うけど、そんなカッコイイ顔と素晴らしい体で、女性とか言わないよね?」
「ぶはっ」
天魔がふき出した。
「いやいや、男だよ。なんなら証拠見せるけど」
妖艶に言われて、証拠を見せてもらう件については丁重にお断りした。
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コメント
1件
第3話、読み終えたよ……。 神威さん=天魔だった展開、めっちゃズルいけどカッコよすぎるでしょ🥀 ずっと沙耶の覚悟を見極めてたってところが、重みあって印象的だった。沙耶が「自分でやる」って言い切った瞬間、彼女の芯が変わったのを感じたし、天魔の拍手と笑顔がちゃんと報われてる感じがしてよかった。 最後の「証拠見せるけど」→丁重にお断り、の流れでちょっと和んだ(笑) これから二人で涼二をどう堕としていくのか、コンビっぷりが楽しみすぎるよ。 沙耶の覚醒、楽しみにしてる🌙