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「まずはSNSでゆっくり関係を築くことから始めよう。友達になるんだ」
私は彼の言葉を噛みしめた。
「でも、どうやってSNSで接触するの? 涼二に見破られたりしない?」
「簡単だよ。俺がアカウントを用意する。相手には間違ったフリをしてメッセージを送って接触するんだ」
「なるほど……」
「そう。沙耶の旦那は脚本家を目指している上に、ポエマーなんだろ? 彼が食いつきそうな投稿を予め餌としてまいておく」
涼二は確かにロミオ的な要素がある。昔はそんな感じじゃなかったのに、自分に酔い始めてからはポエマー気質がさく裂している。それは、愛人への書き込みを見ればわかる。
「詩的な言葉や、少し意味深なポエムみたいなメッセージを投稿しているアカウントを作って、沙耶が応募しようと思っている、シナリオ大賞のことや、脚本家も目指しているって書いておくんだ。誤送信については謝罪して、ちょっとしたやり取りを続けて、このアカウントに興味を持たせる」
私は天魔の言葉を頭の中で反芻した。確かにそれなら怪しまれず、自然な形で涼二に近づける気がした。
「最初はお互い名前も知らないまま、詩や好きな音楽、脚本なんかのやり取りを続けていく。そうすれば、涼二は必ず君の作ったアカウントにハマるはずだ。SNSで旦那と仲良くなるのは、沙耶、君がやるんだ」
涼二と仲良くなるのは私の仕事……!
そうか。彼の好みを把握しているのは、この私。涼二の好きな詩や物語の話をすれば、きっと喰いつく!
「時間はかかるが、君の用意したアカウントを旦那が信じたら、会いたいと言わせてくれ。そうしたら俺が会う。SNSで旦那を沙耶が攻略している間に、俺は愛人を攻略する。いつもは女だけを攻略していたけれども、沙耶の依頼は旦那の破滅だ。だからまずは二人を別れさせるため、同時に動く必要がある」
この人は私が話をした時から、どうやって復讐を成功させるかを考えてくれていたんだ。じゃなきゃこんなにテキパキと指示できない。
彼は信頼できる――そう確信した。
先回りして仕事を行う人間は、誠実であり、デキる人間だ。天魔はそういう部類の人。会社で超一流の仕事をする人間と出会った時のような感覚がする。この脚本は、必ず成功させなければ。
「わかったわ」
「じゃ、これ、俺の連絡先」
新しく名刺を渡された。エンビルオーナー 天魔と書かれている。
「エンビルってどういう意味なの? いい響きの名前ね」
「エンジェルとデビル(悪魔)の略だよ。天魔ってそういう意味でもある」
「へえ……!」
なるほど感心。
「じゃ、天魔。早速涼二を攻略するSNSのアカウントを考えるわ」
「うん。このアカウント使って」
IDとPASSのメモを書いた紙を渡された。
「作りたてのアカウントだから、好きに使っていいよ。使い道は沙耶に任せる」
「オーケー。コンタクト取ったらすぐ知らせるね」
「ああ」
「そうだ。天魔、依頼料っていくらなの? ものすごく法外に高いって聞いたけど、貯金で払えるかな?」
「それ、いくらある?」
「えっと……夫との共有財産の貯金は手を付けられないから、私の独身時代になにかあった時に貯めていたものだったら、300万円なら動かせる」
「なら、依頼料はそれでいいよ。あとは慰謝料の半額をもらうことになってるんだ」
わかっていたけど、やっぱり高いなぁ……。
「今、高いって思っただろ?」
「あ、うん。わかっていたけど……でも、いいよ。貯金なくなっても、また稼ぐから! それに、シナリオ大賞獲ったら300万円もらえるし!」
「高いには、高いなりの理由があるし、それ相当の対価はもらえると思っておいてくれたらいい」
「りょうかい」
依頼料は早めに持ってくると告げ、カクテルを飲み干してからエンビルを出ると、夜の風が頬に冷たく触れた。心臓がまだ高鳴っていて、頭の中はさっきの天魔の言葉でいっぱいだった。
――SNSで旦那と仲良くなるのは、沙耶、君がやるんだ。
まずは自分が動かなきゃ。SNSで涼二と接触して、仲良くならないといけない。それには、まず彼の興味を強く引くようなアカウントになるように考えないと!
タクシーを捕まえ、自宅までの道を急いだ。
帰りのタクシーの車内でスマートフォンの画面を見ながら、どんなプロフィールや投稿をすればいいかと頭を巡らせる。
夫のことなら私が誰よりも知っている。
私の知っている以前の夫は物静かで、感受性が強い人だった。
昔は詩集や文学の書籍、脚本家になるためにたくさん勉強をしていた。ちょっとロマンチックな世界観を持つ作品を好んでいた。
インスピレーションがわくからと言って、昔は私と一緒に寺院巡りや美術館に行くの、好きだったくせに。
でもあか抜けて自分がイケてると勘違いしてからは、派手なスポットばかりに通っている。
よし。
私が作るアカウントは、『昔の涼二』が好きだった世界観にしよう。
本当の涼二の好みを知っているのは、理咲なんかじゃなくて妻である私だけ。
昔の彼を知っているからこそ、彼が深層で求めている世界が作れる。そして彼の心に入り込む。
アカウントのことを考えていたら、あっという間に家に着く。まだ涼二は帰ってきていなかった。
きっと今日は理咲と一緒にいる。そう思うと胸がきゅっと締め付けられた。
はは。おかしいな。
まだ傷つく心が私の中にあったんだ。
涼二のこと、ほんとに、心から愛していたから――
#大人ロマンス
煉彩
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#セックスレス
深冬芽以
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さぶれ-SABURE-
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#相談女
澪
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コメント
1件
うわっ、今回も面白かった!沙耶がついに動き出すフェーズか。天魔の手際の良さと沙耶の「昔の涼二を知ってる」って強みが噛み合って、復讐計画に説得力出てきたな。読みながら「それで行け!」って応援したくなる。 でも最後の「まだ傷つく心が私の中にあったんだ」の一文がグッときた。単なる復讐鬼じゃなくて、ちゃんと愛した記憶も残ってるんだよな…それがリアルで切ない。続きが待ちきれないわ🔥