地方ロケ最終日の夜。
それは、この地獄が終わる日であると同時に、康二の心が完全に壊れる日でもあった。
最後の一週間、康二はまるで操り人形のように生きていた。
Aに言われるがまま動き、何を言われても「すみません」とだけ繰り返す。
毎晩部屋で繰り返される暴力にも、もう抵抗らしい抵抗はしなくなっていた。
痛みを感じる度に、思考が停止していく。それが唯一の逃げ道だった。
最後の撮影が終わった時、共演者や現地のスタッフから「向井くん、お疲れ様!」と温かい声をかけられた。
康二は、かろうじて顔の筋肉を動かして笑みを作る。しかし、その瞳には何の光も宿っていなかった。
ホテルに戻る。これが最後の夜だ。明日になれば、東京に帰れる。
メンバーに会える。
そのはずなのに、心は少しも軽くならなかった。むしろ、鉛のように重く沈んでいく。
部屋に入り、ドアを閉める 。
しかし、鍵をかけるよりも早く、後ろからAが入ってきた。もう、驚きもしなかった。
A「おい」
振り向いた康二の頬を、Aの平手が往復した。
パァン!と乾いた音が部屋に響く。唇が切れ、鉄の味が口の中に広がった。
A「お前、最後の最後までヘラヘラしやがって。反省してんのか?」
🧡……すみません
A「お前それしか言えねえのかよ!」
Aの怒りは、最終日だからか、これまで以上に激しかった。まるで溜め込んだ鬱憤の全てを吐き出すかのように、殴る、蹴るの暴行が始まった。
🧡っ…ぅ…ぁ…
康二はもう、許しを請う声すら出せなかった。されるがままに床を転がり、壁に体を打ち付ける。頭がガンガンと鳴り響き、視界がぐにゃぐにゃと歪む。
🧡(あかん…)
痛い。苦しい。寒い。いろんな感覚がごちゃ混ぜになって、遠のいていく。
(みんなに…あいたい…)
目黒の不器用な優しさ。
照にぃの大きな背中。
しょっぴーの照れ隠し。
舘さんのロイヤルな微笑み。
ふっかさんの安心するイジり。
阿部ちゃんの知的なツッコミ。
さっくんの太陽みたいな笑顔。
ラウールの甘えてくる仕草。
大好きで、大切で、宝物のような8人の顔が、走馬灯のように頭を駆け巡る。
🧡(ごめんな…俺、もう…あかんみたいや…)
最後にAの足が、康二の側頭部を捉えた。
ゴッ、という鈍い音と共に、康二の意識は完全にブラックアウトした。
A「…チッ、気絶しやがった。使えねえな、最後まで」
Aは動かなくなった康二を見下ろし、舌打ちを一つすると、まるでゴミでも捨てるかのように部屋を後にした。
ドアは無情にも閉められ、オートロックがかかる。
冷たい床の上で、壊れた人形のように転がったままの康二。
呼びかける声も、助けてくれる手も、ここにはない。
ただ、静寂と暗闇だけが、彼を支配していた。
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