テラーノベル
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「買ってきた」
ミステーが、黄色と黒のピラミッドを頭にかぶったまま、部屋の中央に箱を置いた。
箱には、銀色の文字でこう書かれている。
『アイーンクラフト』
カキがオレンジ色のヘルメットを軽く叩いた。
「おっ、ゲームじゃん。マサっち、これ知ってる?」
「その呼び方はやめろ。知らない」
マサカゲは箱を手に取り、裏面の説明を読む。
「立体構築型のサバイバルゲーム……採掘、建築、戦闘、探索。ずいぶん要素が多いな」
「マイ●ラだね」
メバルが箱をのぞき込みながら言った。
「マ●クラだよ」
カキも続ける。
「マイ●ラじゃん」
「マ●クラだってば」
アオノが淡々と訂正した。
ミステーはピラミッドの下から、真顔で全員を見た。
「規制されるからやめてぇー」
「そこを心配するのか」
マサカゲがため息をつく。
「でも、アイーンクラフトって名前も、かなりぎりぎりじゃない?」
メバルが笑うと、カキは箱を持ち上げて軽く振った。
「中身、壊れてないよね? このゲーム、VR対応なんだってさ」
「VR?」
アオノが箱を受け取る。
説明書を確認し、しばらく無言で読み進めた。
「専用ゴーグルを使用すれば、視覚と聴覚だけでなく、触覚情報も一部再現できるようです」
「それ、全員でできるの?」
メバルが身を乗り出した。
「対応機器が六台あれば可能です」
「六台?」
カキが指を折る。
「俺、メバル、マサっち、ミステー、アオノ、Kさん。ちょうど六人じゃん」
部屋の隅で、K-Tが顔を上げた。
手にはいつもの折りたたみ式のガラケーがある。画面を確認したあと、彼は短く言った。
「……安全性は」
「そこを聞くと思った」
アオノは説明書を閉じた。
「市販品より安全な構造に改良できます。接続状態、電圧、通信経路を管理すれば問題ありません」
マサカゲがすぐに口を挟んだ。
「問題ない、ではなく、問題が起きないように検証する。全員、勝手に装着するな」
「はいはい、安全第一ね」
カキが箱を開けようとする。
「カキ」
マサカゲの声が低くなった。
「分かったって。そんな顔するなよ」
その隣で、ミステーが箱の中からゴーグルを一台取り出した。
「これは目を覆う道具。目が見えなくなる」
「VRゴーグルだからね」
メバルが笑う。
「そうか。では、目を閉じたまま別の場所へ行ける」
「それ、ちょっと怖い言い方だよ」
メバルの笑顔がわずかに引きつった。
アオノは全員分のゴーグルを机に並べ、配線と接続端子を確認していく。機器の側面を開き、内部の回路を覗き込むと、細い工具を取り出した。
「初期状態では、ゲーム内への接続処理が不安定です。私が調整します」
「そんなことまでできるのか?」
カキが感心する。
「できるかどうかは、今から確認します」
アオノは淡々と答えた。
「できなかったら?」
「爆発はしません」
「そこは安心していいの?」
「爆発する設計にはしていません」
「安心の方向が変だなぁ」
メバルが苦笑した。
K-Tは部屋全体を見回してから、ゴーグルのひとつを手に取った。裏側を確認し、ベルトの強度を確かめる。
「異常があれば、すぐ外す」
「Kさん、ゲームなんだから、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
メバルが言う。
「警戒は必要だ」
「……そっか。でも、Kさんも一緒なら安心かな」
「俺がいるから安全とは限らない」
「でも、Kさんがいると心強いよ」
メバルは明るく笑った。
K-Tは返事をしなかったが、ゴーグルを机に戻すこともなかった。
しばらくして、アオノが接続作業を終えた。
「動作確認は完了しました。全員、装着できます」
「よーし、冒険開始!」
カキが真っ先にゴーグルをかぶる。
「待て。全員で同時に開始する」
マサカゲが注意した。
「了解、司令官」
「茶化すな」
「マサっち、怖い顔しすぎ」
「カキ」
「はい、黙ります」
メバルはゴーグルを手に持ったまま、みんなの顔を見た。
「ねえ、ほんとに大丈夫かな?」
「大丈夫。異常があれば停止します」
アオノが答える。
「ゲームの中で迷子になったりしない?」
「位置情報は取得できます」
「急に怖い敵が出てきたりは?」
「初期地点に敵が出現する仕様ではありません」
「よかった」
メバルは胸をなで下ろした。
そのとき、ミステーがゴーグルを装着した。
「見えない」
「まだ起動してないからね」
カキが笑う。
「見えない状態で、すでに何かが見えている」
ミステーが真剣に言った。
「それは見えてないってことじゃない?」
メバルが首をかしげる。
全員がゴーグルを装着した。
アオノが最後に起動スイッチを押す。
暗闇が広がった。
次の瞬間、風の音が聞こえた。
頬を撫でる冷たい空気。
足元には、ざらざらとした地面の感触。
メバルが目を開けると、そこは見慣れた部屋ではなかった。
青い空。
白い雲。
遠くに広がる森。
近くには、四角く積み上がった土の塊と、奇妙な形の木々が並んでいる。
「わあ……!」
メバルが声を上げた。
「本当にゲームの中に入ったみたい」
「再現度が高いな」
マサカゲが周囲を見回す。
「視覚、聴覚、触覚。すべて正常です」
アオノは自分の手を握ったり開いたりしている。
カキは地面を踏みつけた。
「すげぇ! これ、土なのに四角い!」
ミステーは空を見上げている。
「太陽が四角い。食べられるかもしれない」
「食べないでね」
メバルが慌てて止めた。
K-Tは全員の位置を確認し、周囲へ視線を走らせた。
「集合」
短い声に、全員が集まる。
「まずは周辺確認。無理な行動は禁止。日没前に拠点を作る」
「了解!」
カキが元気よく手を上げた。
「俺、洞窟とか探してくる!」
「単独行動は許可しない」
「えー」
「カキ、みんなと行こう」
メバルが声をかけると、カキはすぐに戻ってきた。
「メバルに言われたら仕方ないな」
「私は救護担当だから、みんなから離れないでね。ケガしたら困るし」
「まだ何も起きてないけど?」
「何か起きてからじゃ遅いよ」
メバルは笑っていたが、周囲への警戒をやめなかった。
その直後、ミステーが地面を指差した。
「穴がある」
「それは地面のくぼみだ」
マサカゲが言う。
「入れる」
「入らない」
「中に何かいる」
「根拠は?」
「穴だから」
カキが吹き出した。
「ミステー、相変わらずだなぁ」
だが、ミステーが指差した場所の奥から、低い音が響いた。
ごり……。
全員の表情が変わる。
メバルが一歩下がった。
「今の、何?」
K-Tがすぐに前へ出る。
「全員、後退」
森の奥でも、何かが枝を踏み折った。
ごり、ごり、と音が近づいてくる。
カキが笑顔を失った。
「ねえ。これ、まだ昼だよね?」
「ゲーム内の時間を確認する」
アオノが空を見上げる。
その瞬間、空に黒い文字が浮かんだ。
DAY 1 17:42
マサカゲが眉をひそめる。
「日没まで、あまり時間がない」
「まず拠点を作る。カキは採取、アオノは周囲の地形確認。ミステーは勝手に穴へ入るな」
「入るなと言われると、入りたくなる」
「入るな」
「分かった」
ミステーは素直にうなずいた。
その後ろで、森の影が動いた。
K-Tが全員の前に立つ。
「走る準備をしろ」
「Kさん、何かいるの?」
メバルの声が震える。
「ああ」
森の奥から、四角い頭部を持つ黒い生物が姿を現した。
その目が、まっすぐこちらを向く。
カキが小さく息をのんだ。
「……これ、敵?」
K-Tは答えず、全員を後ろへ下がらせた。
そして、まだ何も持っていない右手を強く握る。
「来るぞ」
黒い生物が、地面を蹴った。
空が夕焼けに染まり始めていた。
くろぬか
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#復讐
コメント
1件
いやもうこれめっちゃ良かった!!😭💕 まず「アイーンクラフト」ってタイトルで笑ったし、メンバーの掛け合いがテンポ良くて一気に読み終わったよ〜! 特にミステーの「太陽食べられるかも」とかアオノの冷静すぎる安全確認とか、キャラの個性が立っててすごく好き!! 最後の黒い生物の登場でめっちゃ続き気になるんだけど!?Kさんの無手の構えかっこよすぎる…✨ 続き待ってます!!🔥