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「お浜さん……」
葛籠《つづら》の中身を見た櫻子は、言葉に詰まった。
着物を保管する為に包む、たとう紙《し》にくるまれた衣装が、葛籠の中に仕舞われている。
そして、そのたとう紙には、櫻子、と、書かれてあった。
櫻子の着物という意味合いなのだろうその筆跡は、見覚えのあるものだった。
「櫻子ちゃん!これ、これは、櫻子ちゃんの物なのかい?!」
お浜も、どうゆうことかと、混乱している。
「……お母様の筆跡……だわ……」
たとう紙に書かれている、柔らかな雰囲気の文字は、櫻子の母のものに違いなかった。
幼い頃に亡くなった、母の記憶を櫻子はたどる。
昔、手習いを兼ねてなのだろう、文字の読み書きを遊びに取り入れていた、あの時の筆跡に間違いない。
母は、珍しい外国の絵本も読んでくれた。
そのたび、体が弱くなければ、師範学校へ行って、先生になりたかったのだと、幼い櫻子へ向け微笑んだものだ。
おそらく、自分の先が長くないと悟っていたのだろう。我が子へ、できるだけの事をしてやりたい。その一心だったのかもしれない。
そして、櫻子の将来を見越し、着物を仕立ててくれていたのか……。
「櫻子ちゃん!は、早く、開けてごらん!!」
櫻子は、お浜の言うがまま、たとう紙を開けてみるが、指先は震えていた。
「こ、これは!」
お浜が、息を飲む。
たとう紙から出てきたものは、女袴と着物だった。
「……櫻子ちゃんの、お母さんは……そこまで先の事を考えていたんだね……」
「お、お浜さん!」
それだけ言うと、櫻子は、わっと泣き崩れる。
中身は、女学校へ進学した時に必要になるだろう衣装一式だった。
「さ、櫻子ちゃん、ほ、ほかも、見てみよう!」
お浜は、慌てて、他の葛籠を確かめた。
「……なんてことだい……」
やはり、櫻子、と、名前が書かれた、たとう紙に包まれた着物が出てくる。
それは、節目節目の行事に着る晴れ着で、纏うであろう年頃に合わせ、仕立てられていた。
「櫻子ちゃんの成長を……考えて……」
言う、お浜も涙声になっている。
「……お母様……」
葛籠から出てきた、袴と着物をしっかり抱きしめ、櫻子は泣き続けた。
「よし!櫻子ちゃん!行きな!あんたは、行かなきゃ!」
お浜は、ちょいとごめんよと、断ると、櫻子の後ろをすり抜け、廊下へ出た。
「キヨシ!!!!来ておくれっ!!!!キヨシ!!!!早くっ!!!!」
そして、何故か、金原を呼んだ。
暫く後、不機嫌そうにドタドタと
大仰な足音を立て、金原が現れた。
「……うるせぇぞ、お浜。今日が、どんな日だか、おめぇも、わかってんだろうがぁ!」
二日酔いの辛さから、金原は、お浜にあたりちらす。
「だから!大変な日なんだよっ!!」
「それが、わかってんなら、大声だすなっ!」
不快感をあらわに、眉をしかめる金原だったが、納戸部屋の奥で、泣きじゃくっている櫻子の姿に気がついた。
「なっ!?お浜!!てめぇ、櫻子へ何をしたっ!!てめぇが、泣かしたのかっ!!」
そこにいろ!と、叫ぶと、金原は、慌て、櫻子の元へ行こうと部屋へ入り込む。
途中、足を荷物にぶつけ、つまづきながらも、おぼつかない足取りで、なんとか、櫻子の元へ行くが、当の櫻子は泣きじゃくるばかり。
結局、金原は、お浜を呼んだ。
「……ということなんだよ、キヨシ!」
事情を聞いた金原も、言葉に詰まった。
そして、黙って、櫻子を抱きしめる。
「……完敗だな。俺が、一番、櫻子の事を考えていると思っていたが……」
ポツリと金原は言うと、
「櫻子。女学校へ行け。それが、お母さんの望みでもあるのだから……」
櫻子へそう囁き、しっかり抱きしめた。