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こうして、金原商店一丸となり、櫻子を女学校へ通わせるため動き始めた。
尋常小学校はかろうじて卒業している櫻子だが、いかんせん、時が経ちすぎている……。
「社長、こちらが、女学校の一覧です」
客間兼、仕事部屋となっている床の間で、金原と八代が顔を付き合わせていた。
「なるほど……。それで、金で落ちそうなのは、どこだ?」
寄付という名目で、金を投じ、櫻子を編入させるのが一番手っ取り早かろうと、金原は、八代に言い付け、金策に息詰まっていそうな女学校を調べさせていた。
女学校というものは、結局、嫁入りの箔付けでしかなく、真剣に何かを、追求し、学ぶ場所ではない。
結婚話が決まれば、皆、さっさと退学してしまう。学校としては、一人でも生徒がいる方が、実入りになるわけで、しかも、寄付という大金がついてくるとなると、当然、喉から手が出る条件だった。
櫻子にとっても、年下にはなるが、同年代の女子と触れあうという機会ができる。
金原は、それを一番望んでいた。今まで、虐げられて来た分、櫻子へ、十分に出来なかった楽しみを謳歌させてやりたいと思っていた。
それは、擦れた世界に身をおいたがために、人並みの世界に触れられなかった、金原自身の願望なのかもしれなかったが……。
「ここ、辺りが狙い目、でしょうか?一応、下級の華族も入学してはいるようです。体裁は、ほどほど良いと思います。が、新設の私立学校。学生集めに四苦八苦しているようですね……」
八代が、座卓に広げた紙を指差した。
「礼華女学校……、聞いたことがないな」
「ええ、まだ、私塾に近い状態で、名前が通っていないため、学生も集まりにくく、設備も若干劣るようですね。そこは、社長が、投資なされば。いっそ、理事にでも、就任されたら?」
八代のからかい半分の言葉を受けた金原は、
「……それだと、櫻子が、いじめられないか?理事の妻だとか、理事のコネで入ったとか……」
などと、真剣に悩み始めた。
らしくない返しに、八代は、流石に、ぶっと、吹き出す。
「あのですね、社長。そもそも、大金叩いて、櫻子さんを入学させるんですよ?」
「ああ、しまった。それも、まずいな。八代、生徒には漏れないよう、十分考慮しろ!!」
八代は、笑いを噛み締め、わかっていますと、金原を軽くいなした。
「あの……お茶を……」
そこへ、おどおどと、櫻子が、茶をのせた盆をもってやって来た。
「おや、櫻子さん、浮かない顔ですね」
そうですか?と、言いつつ、櫻子は、金原と八代へ茶をすすめた。
「ああ、櫻子、入学する女学校が、決まりそうだぞ。衣裳は、お浜が、成田屋に言って、お前の寸法に仕立て直している。そろそろ出来上がる頃合いだろう」
出された茶を飲みながら、金原が、ご機嫌な調子で言った。
「旦那様。その事ですが……」
「どうした?」
俯き、萎縮しきっている櫻子の様子を、金原は不思議そうに見た。
「……櫻子さん、心配は、いりませんよ。新設の学校を選んでいますからね、比較的、穏やかな校風です」
「そうですか……」
櫻子の不安を解消しようと、言う八代へ、櫻子は、返事をするが、その口振りは重い。
「遠慮なされているのですね?」
八代が、本音を突いた。
櫻子は、そのまま、黙りこむ。
「それは、困ります。櫻子さんには、金原商店の為に、女学校で、学問の基本を学んでもらわなければなりません」
「……金原商店の為に?」
「いいですか?櫻子さん、私達はは、いわば、独学で物事を学んで来た。今までは、それでよかったのですが、今後は、商売の幅を広げて行きます。そう、外地と取引を初めようと思っています。柳原商店の絹織物、成田屋のドレス、を、外地、ひとまずは、半島へ輸出するつもりです」
捲し立てるように、八代は言うと、そうですよね?と、金原に同意を求めた。
「ん?!」
確かに、いずれは、と、思っていたが、そこで、柳原商店と成田屋が出てくるのが何故なのか、いや、どうして、そこまで話が進んでいるのか、金原は初耳だった。
「と、言うわけで、つきましては、櫻子さんにも、海を渡って半島へ行っていただきます。でしょ?社長?」
「はっ?!」
行っていただきますと、八代は、言い切っているが、これまた、金原には、初耳で、一体、八代は何を言いたいのか、まるで分からない。
ポカンとしている、金原など、いないかのように、八代は、話を進めていく。
「ですから、新しい顧客層と付き合いが始まります。そうなると、独学ではなく、学校で学問を学んだ者がいる方が、何かと都合が良くなる。ですよね?社長?」
「へっ?!」
ですよね、と、八代に、振られても、そんなものなのか、いや、何故、櫻子が海を渡って半島へ行くのか金原は、さっぱりだった。
「社長?」
八代が、念を押してくる。
「あ、ああ、し、支店を出そうと思っている。だから、櫻子!半島へ、渡るそ!」
「そうゆうことらしいですよ?櫻子さん。あとは、社長と二人でお話を」
八代は、さっさと部屋を出ていった。
二人で話をと言われても、さて、これは、半島へ渡る話をしろと言うことなのか?女学校は、何処へいったのか?なんなんだと、金原は、内心、おろおろしつつ、櫻子に悟られまいと、白々しく茶を飲んだ。
コメント
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ああ、もう八代さんがやり手すぎて笑っちゃいました😂「社長?」って念押しする時の金原さんのポカン顔が目に浮かぶようで…。櫻子さんの不安げな様子も切ないけど、金原さんが本気で彼女の幸せを考えてるのが伝わってきて、じんわり温かい気持ちになりました。八代さんの半島へ渡る話、まさかのぶっつけ本番だったんですね!次がどうなるのか気になります〜