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レプリカってそういう意味だったの? と、今更、彼らの言った言葉を理解した。先ほど簡単に倒せたあれは、この本物をベースに作ったレプリカ……複製品だったと。だって、大きさが、違うから。
(二倍?それ以上?)
天井ギリギリまで伸びた大きな毒針と、鋼鉄のはさみ。そして、先ほどよりもメタリックに、黒々と光るその身体は、ラヴァインの風魔法でも傷をつけられるかどう勝っていう感じだった。じゃあ、大蛇は何であんなに早く倒せたのか。今回は、一筋縄ではいかないとそんな気がした。
「倒せるの……」
「あーもう、弄ったな。彼奴」
「弄った?」
「本来の大きさじゃないんだよ。まあ、あのレプリカより大きいって言うのは分かるんだけど、ここまで大きくなかった。何か食わせてる、魔力か、それとも人か」
「ひ、人!?」
サソリが人を食うなんて聞いたことない! と、叫びたかったが、その気持ちを何とか抑えて、信じられないと、私は首を横に振った。でも、ラアル・ギフトが、ヘウンデウン教の幹部だって知っているからか、不思議とその線もあり得るなあ、とも思ってしまった。思いたくないし、想像なんてしたくないけれど、でも、ヘウンデウン教が、どれだけの人間を犠牲に、人体実験を行ってきたかなんて、想像もたやすくて。
(人間を直接食わせてるかどうかは分からないけど、魔力を吸わせているっていう意味なら同罪かも)
人間は魔力が枯渇すると、死ぬから、魔力を吸わせる=死、とも捉えられないこともない。だから、その線があり得てしまうのが、怖いと思った。まあ、サソリがあのはさみで人間を捕まえてくっているっていうのもかなりシュールではあるけれど。
「ろくでもないことしてるって言うのだけ、分かる。だって、ほぼ、あんなの呪いの塊みたいなものじゃん」
「呪い!?もう、色々情報多すぎて、整理できないんだけど!」
呪いって、何? 此の世界に呪いも存在するの?
その説明に関しては、誰もしてくれなかったため、うやむやになってしまったが、私は、目の前に現われた、大々サソリをどうするか、考えた。きっと、グランツの剣では刃が立たない。それに、彼が本領を発揮するのは、魔法攻撃であって、物理攻撃ではない。でも、ラヴァインが、サソリをどうにか出来ると言われたら、それもそれで怪しくて……
今、私に出来ることって?
聖女の力、それが試されるのはいつ? 本領発揮は、何処で? と、自分で自分の可能性を考える。そして、効率も考えて……
「エトワール」
「何よ、ラヴィ」
「考えるより先に、身体を動かしてみたら?多分エトワールにはそっちの方が向いてる」
と、ラヴァインは笑うと大サソリに向かって走り出した。やはり、ラヴァインが、サソリを引きつけて、グランツが、ラアル・ギフトと戦うのだろう。その方が良いに決まっているのだ。ラアル・ギフトの魔法が全て無効化できるグランツはこれ以上ないほど、ラアル・ギフトにとっての天敵だろう。
(じゃあ、私は……)
今自分に出来ることは、ラヴァインの援護だと思った。私は、手に集めた魔力を光の弓矢に変換し、一気に何本もの矢をひく。あの鋼鉄の身体を貫けるかどうかは分からないけれど、アルベドに教えて貰った、魔力を最小限に、そして、最大に生かす方法で……
シュパッと音を立てて、矢がサソリに向かって飛んでいく。サソリは、私の攻撃に気を取られたのか、ラヴァンの風魔法に気づかず、鋼鉄の身体がぐらりと傾いた。サソリが少しでも動くと、地面が大きく揺れて、体勢が崩れてしまう。動かないように、光の鎖でその場にはり付けるほうがいいかと、私は、地面から無数の光の鎖をはやして、サソリを拘束する。
ガチャガチャと、金属がぶつかり揺れる音がする。多分、長くは持たないだろうな、と思いながら、私は次なる攻撃を仕掛ける。サソリに弱点があれば、もっと攻撃を試せるのに、と私は、歯がゆさを感じながら、光の弓矢を放つ。
放ったときの魔力は最小限に、そして、標的に当たった瞬間そこで爆発するように魔力を込める。アルベドに教えて貰った方法でやれば、魔力を温存でき、尚且つ、動きやすいし、自分の中でイメージがかたまりやすい。
イメージを固めることが、最優先な世界で、魔法は、本当に何処までも進化すると思った。
「って、堅すぎる!」
ラヴァインと両側から、攻めていくが、全くといって良いほど、サソリにはダメージが入っていなかった。つやつやとした黒々強い胴体は、未だ無傷のままだ。結構な攻撃を喰らわせていると思っていたんだけど。
「まっずいね……」
「ラヴィ……矢っ張りそう思う?」
「堅すぎる。ほんと、どれだけ頑丈になってんの。これ、勝てるかなあ」
「そ、そんなこと言わないでよ」
負ける=死なのに、何を言い出すんだと、隣に降りてきた、ラヴァインに向かって叫んだ。けれど、彼の顔にはまだ余裕があって本気でいっているわけではないことが分かる。冷や汗も何もかいていない。けれど、全てが冗談だと言い切るには、辛かった。
(……何か、いい策はないの?)
魔法攻撃が効かないのなら、物理攻撃が効くわけもなかった。というか、先ほどのレプリカ? とはあまりにも違いすぎる。
「ラヴィ。さっきのレプリカって、強かった?」
「うん? いやあ、あんなの、五分の一程度だったよ。本体の。でも、そう思うと、あまりにも強すぎるんだよ、このサソリ。どうするかなあ」
「どうするかって……攻撃を当て続けるしか」
「魔力が枯渇したらどうするの。エトワール」
「うっ……」
確かにそうだ。私達の魔力が尽きたら、それはそれで大事故なのだ。誰にももう、止められないだろうし、それこそ、勝てる光を見失ってしまう。
ラヴァインは、自分の頭で考えなよって強く言ってくるし、少し余裕がないのかな、とも思った。ラヴァインは、戦闘慣れしているから、こういう時もでも機転が利くのだろう。それに比べて私は……
(場数踏んできたと思ってた。でも、全然……)
戦い慣れてきた、と勘違いしていたのだ。だから苦戦を強いられている。ラヴァインにとって、今の私は足手まといでしかないのかも知れない。
それが悔しくて、ほんとうに、自分の勝ちを見失いそうで、私はグッと拳を握った。自然と漏れてしまった魔力は、ラヴァインの魔力とぶつかって小さな衝撃波を発する。
「……エトワール」
「私は」
「足手まといなんて思ってないから。だから、そんなにネガティブにならないでよ」
そういって、ラヴァインは私の頭を撫でた。優しく、でもそこに荒々しさも感じて、この撫で方って、矢っ張り、違うよね? と思ってしまう。重なってしまって、うるっと涙が溢れてくる。
そんなわけない。重ねるなって、自分に何度も何度も言い聞かせて。
彼じゃなくても、私は適応できる。でも、彼だったら、もっと信頼して戦えるかも知れないと。ここに来た目的を既に忘れそうになっていた。真実の聖杯を持ち帰って、自分の無実を証明すること。それが、最優先。真実の聖杯さえ手に入れば、ここから逃げれば良いし。
けれど、逃がしてはくれないんだろうなって、そういう空気で。
「足手まとい、じゃない?」
「聖女が、俺の相棒なんだよ?俺は、自分のこと、今無敵だなって思うけど。エトワールは俺の事、どう思ってるの」
「……安心する。誰かが一緒に戦ってくれることは、凄く安心する……から。でも」
「でも、じゃないよ。ほんと、エトワールって変なところで堅いというか、頑固というか。もっと自信を持ってよ。俺は、エトワールのこと信用しているんだからさ」
「ラヴィ、何で……」
「うん?」
そんな信頼されるようなことしたっけ? なんて聞いてしまいそうになった。でも、実際、ラヴァインと一緒に戦ったことなんて数えるほどしかないし、アルベドと比べたら全然まだ、戦闘面では分からない事だらけで。
でも、ラヴァインは全て知っているとでもいうように話すから不思議だった。この前、アルベドに聞いたからかも知れないけど。
(……そうだよね。マイナスな気持ちになってても何も始まらないし……)
もう、災厄のせいで、自分の思考がマイナスになってしまったなんていう良いわけは通じない。だから、これは、私の性格の問題だと思う。私がマイナスしこうになってしまうって言うのは、自分の性格の問題。プラス思考にしていかないと、私はいつか自分の性格に押し潰されてしまうかも知れない。
自分を変えてかなきゃ。生きていくために、皆と一緒にいるために。
「大丈夫、私なら……」
「その息だよ。エトワール……でも、俺も、エトワールに興味失って貰わないように、張り切らなきゃね!」
そういったかと思うと、ラヴァインは、ちぎれかけていた光の鎖にまとわりつくように、闇色の太い鎖を何本も創り出して、サソリの身体をさらに強く拘束した。潰れてしまうんじゃないかってくらい、サソリは地面に縫い付けられ、身動きが取れない状況になる。
私は、自分よりも拘束力のあるそれを見て、口をあんぐり開けて見つめるしかなかった。
「え……」
「エトワールの応用。まあ、闇魔法なんて、低俗な魔法っていわれてるくらいだからさ、こういう拘束魔法に優れてるわけ。でも、鎖にしてみたのは、初めてかなあ。エトワールが、最初にイメージを作ってくれたから、作りやすかったって言うのはあるけれど」
パクった、みたいに、ラヴァインはいうと、ふはっと笑った。威力が違いすぎる。私の展開した光の鎖の魔力を吸い取ってその高度を上げ、より頑固たるものにしたのだ。応用といわれれば、確かに応用で、でも、魔力があるからこそ出来るものだと思った。鎖一つ一つがしっかりと形になっていて、私の光の鎖が如何に脆いかがよく分かってしまう。
(……見せつけ、当てつけ……)
いや、嫉妬するのはやめよう。私のがあったからこそ、出来たものだ。そう考えることにして、誇らしげな、ラヴァインの横顔を見る。彼は、気づいてふと私の顔を覗き込んだ。
そういう顔が、一番嫌だ。
顔が熱くなってしまって、バレないように背け、私はギチギチと身動きの取れないサソリに視線を移した。やるなら今だと。
「じゃあ、エトワール。最後は任せていい?」
「勿論よ。やってやるから!」