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腕まくりして、呼吸を整える。出来る、まだ感覚が残ってるから。
(あの時みたいに……!)
深い海の中から助け出してくれたアルベド。そして、空中からの大攻撃。あの時の感覚を今でも思い出せた。
「出来そう?」
「ちょっと待って、プレッシャーかけてる?」
「うん?いやあ、かけてないよ。ただ、あの時の感覚って……いや、覚えてるのかなあって」「何が?」
「こっちの話。ごめんね、邪魔して」
と、ラヴァインは眉を下げていう。意味が分からない。でも、私に出来ることがあるって分かったから、するしかない。魔法を使っているうちは、魔力は消費され続けるわけだし、早いところ、拘束しているうちにサソリにとどめを刺さなきゃいけない。
あの時みたいに上手く出来るか分からないけど。
「……」
集中し、私は大きな槍をイメージする。レヴィアタンを撃破したときのあの一撃を。
いける、と自分に暗示し、私は集めた魔力で、大きな槍を生成する。あのサソリを串刺しにする大きな槍。それを、サソリの真上に生成し、私は少しの魔力でそれを思いっきり下へと下ろす。勢いついた槍は、バチバチと、スパークしながら、サソリの鋼鉄の図体に向かって真っ逆さまに落ちていく。
「貫けっ!」
私はサソリの胴体を貫く際、ありったけの魔力を込めて、突き刺した。そうじゃないと、あの鋼鉄の身体は貫けないと思ったから。
そして、槍は、ギギギギと折れそうな勢いでサソリの胴体を貫いた。そして、噴水のように突き刺さった場所から、サソリの紫色の血が飛び散った。猛毒を含むそれが、私達めがけて槍のように降ってくる。
「あ……っ」
防御魔法が追いつかず、私が上を見上げていれば、判断が遅い、というようにラヴァインが私を抱きしめて、防御魔法で私を包み、サソリの血を全て弾いてくれた。ぷしゅう……ぷしゅう……と、地面に付着した血は、その場をドロドロにとかして、もしアレに当たっていたらどうなっていたか、考えるもたやすかった。
「ラヴィ……」
「もう、最後まで気を抜かないでよ。エトワール」
「ご、ごめん。あ、後ありがとう」
「はいはい。どーいたしまして。ほんと、気をつけてよ?エトワール」
なんて、説教されて、一気に気が滅入ったというか、一応年下に説教されてるんだよね、と心が痛んだ。格好良く決めようと思っていたのに、何か最後の最後で情けない。
でも、結果オーライ。サソリは倒せたし、後は、グランツとラアル・ギフトの戦いが終わるのを待つだけだろう。まあ、勝敗なんて目に見えてるけど。
「随分、グランツ・グロリアスのこと信用してるんだね」
「勿論……って、言い切れたら良いんだけど。まあ、強さでいえば、単純な戦闘力でいえば、信頼してるって言った方が良いかな」
「ふーん、含みがあるねえ」
と、ラヴァインは、ニヤニヤと笑う。
信頼しているって言い切れないのは、彼の態度のせいだし、清算しきれないのは、彼詩人も分かっていることだろう。私は許したけれど、彼は彼の罪をずっと抱えて生きていくことになるのは間違いない。彼だってそう決めただろうから。
「……っ」
「っと、エトワール。倒れないでよ」
「ごめん、ちょっとふらついちゃって」
「魔力量、考えずにやったでしょ。前もそうだったけどさ」
「前?」
「……前も」
そう、ラヴァインは繰り返すようにいって、倒れそうになった私を抱きかかえてくれた。そこら辺には、まだサソリの肉塊が転がっているし、魔力が途切れかけている今、残骸とは言え、サソリに触れてしまったら、どうなってしまうか、考えるだけでも恐ろしかった。
ラヴァインが受け止めてくれたのは本当にありがたかったし、咄嗟に行動してくれるのは彼の良いところだと思っている。
目眩がして、足下もふらふらとしている。先ほど一気に魔力を消費したことによる枯渇現象だとは思うけど、この世界では魔力が如何に大事なものか分かって、辛い。魔法を、乱用できないようにする為の仕組みなのかもだけど、魔力を使えば使うほど弱る仕組みは、知らないとつらいだろうなって思った。自分がどれほどまで魔力を使って大丈夫なのか、ダメなのか。それは、分かっていないといけない、というわけだ。
「心配してくれてありがとう。何回でも、いうけど、本当に感謝してる」
「うん」
「あれ、照れたりしないの」
「何で照れるのさ。俺は、貰いたい言葉もらって、満足してるだけだけど」
「でも、前、いわれ慣れてないみたいな、顔してなかった?」
「気のせいだよ。あーあー、エトワールが虐める」
「いや、虐めてないし」
わざとらしく声を上げて、ラヴァインは、私に嘘泣きした顔を見せてきた。全然口元は笑ってるし、私をからかっているだけっていうのは伝わってきたけれど、何だか、楽しそうで、本当に現金な人だなあって思う。これで、私より年下だから、可愛さも、出てこないわけじゃないけど。
(ラヴィに可愛さって何よ)
乙女ゲームのキャラだし、どっちかというと、格好いいんじゃない? と、久しぶりの此の世界が乙女ゲームの世界なんだ、という認識をし、ラヴァインを見た。彼は、私を見ると、フッと口角を上げて、その黄金の瞳を輝かせた。そういえば、アルベドがどうしているかって、本当に真剣に聞いてなかったなあ、とも思った。教えてくれそうにないから、聞かないだけで、まあ、うん。あれだけど。
「ちょっと、素朴な質問」
「何?答えられる範囲でしか答えないけど」
「はじめから、限定する必要あるの?」
「あるよ。エトワール、聞きにくい質問してくることがあるから。俺だって、隠したいことの一つや二つあるけど?」
「例えば何よ」
私が、そう聞くと、ラヴァインは、それが秘密なんだってば、なんてぶりっ子して答える。全然可愛くないし、何でそんな似合わないあざとさを表現するのだろうかと、殴りたくなってしまう。でも、そんな体力もなくて、冷ややかな目を向けてあげれば、ラヴァインは肩をすくめた。
「で?聞きたいことって何?」
「……アルベドと、ラヴィ。どっちが戦い慣れてるの?」
「何それ?そんなの、兄さんに決まってるじゃん。知識も経験も兄さんの方が遥かに上。俺が勝てるわけないんだよ」
「そ……だよね」
「そうだよねって、それもそれで酷いけど、何で聞いたの?俺の戦い方に不満?」
「いや、ちょっと」
私が言葉を濁せば、彼は口を尖らせて「何それ」と、少し不機嫌気味に眉をつり上げる。怒らせたかったわけじゃないんだけど、何というか、違和感があるというか。言葉にしにくいけど、ちょっと引っかかる部分があって聞いてしまったのだ。
そうじゃないって、その確証は何処にもないし、逆にそうだったとしたら、もの凄い魔力を消費することになるし。
「俺の事、何か疑ってる?」
「別に。まあ、アルベドから聞くことも一杯あるだろうから、まあ、そうよねーっていう話」
「だから、何それ。はあ、ここで、ぐちぐち言ってても仕方ないから、俺達もかせんにいく?」
「うん?ああ、でも、いや……多分決着つくと思う」
先ほどから、一方的な戦いが、私の目の端の方で繰り広げられていた。
ラアル・ギフトとグランツの戦い。勝者はどちらか、なんて目に見えていた。魔法が効かないなら、まず、ラアル・ギフトはグランツに手も足も出ないだろう。ラアル・ギフトの性格から考えるに、自分は後ろで攻撃をするタイプだろうし、それも魔法で。だから、近接戦に離れていないと。だったら、グランツが強いに決まってる。私の護衛騎士が負けるわけない。
カキン……と、金属音が響き、何かが地面に突き刺さった。それと同時に、トスンと、ラアル・ギフトが尻餅をつく音が響く。
勝敗は決まった。
「ひいっ、あ、貴方は、元々こちら側だったでしょう。なのに何故、うらぎ……ひっ」
「裏切ったわけじゃないですし、そもそも、貴方たちの味方じゃありませんでしたよ。そこを、はき違えないでいただきたい」
口調は静かだったけど、穏やかなものじゃなくて、グランツは、その剣先を、ラアル・ギフトに向けていた。此奴が、情報を持っているとは考えにくいけど(口は堅そうではあるし、一応幹部っていうこともあって)、殺すには惜しいと、まだ利用しがいがあると、私はグランツを引き止める。
「グランツ、待って」
「……エトワール様」
「まだ、此奴には聞きたいことがあるの。エトワール・ヴィアラッテアのこと、聞かなきゃ、すまない。アンタ達の目的も、これからやろうとしていることも」
全部ぶっつぶしてあげるから。
どっちが、悪役かわからないけど、私は元々悪役の設定で作られたキャラなんだから、これくらい良いよね。と、私は少し、悪ぶってラアル・ギフトの前に立ちふさがった。