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「私も自分の言葉は必ず実行する男ですよ、さぁ、お座りください、あなたの為に特別にシェフに作らせたスイーツがあるんですよ、きっと気に入って下さいますよ」
「伊藤さん、私が今日ここへこうしてお邪魔したのは、贈り物を届けるのをやめて下さる様、申し上げるためです、もうお会いするつもりはありません事を最初にお伝えしておきます」
百合が言った
定正は手を伸ばし、彼女の手の上にそれを重ねた
「”定正”と呼んで下さい」
百合はすぐ手を引っ込めた
「では・・・定正さん」
定正はしばらく無言で百合を見つめていた
「百合さん、あなたがそれほど残酷な人間だとは思えませんが・・・」
「別に・・・残酷だとは思っていませんけど?」
定正がにっこり微笑んだ。
「それなら助かりました、あなたは最後の昼食にしかめっ面で挑むなんて、か弱い男の心臓を引き裂くようなことはなさいませんよね?」
百合の目が点になった
「か弱いって・・・ご自分の事ですか?定正さん?」
思わず百合は吹き出してしまった
「あなたは心臓に毛が生えた実業家として、世間では通っていらっしゃるではありませんか」
定正もニッコリ微笑んだ
「確かにおっしゃる通りです、でもそれは百合さん、あなたに会う前までの私の話です、正直に話させて下さい、私はあなたに初めて会った時からずっと心臓麻痺を起こしている状態なんです、今でもちびりそうなんですよ」
今度は百合は顔を天井に向けて笑ってしまった、そこからは定正の一人漫談に百合は笑い通しだった、実際定正は魅力的な男だった
「うちの親父は高知の漁船で働く肉体労働者でした、毎日が食うや食わずでしたよ、兄が八人もいて私は末っ子、何をするにも喧嘩、それも熾烈な争いに勝たなくては欲しいものを手に出来ません」
定正の身の上話に、百合の胸はほんの少しキュンとなった
「私も・・・貧しい暮らしの苦労は心得ています、でも、今はお金持ちじゃないですか」
「何をおっしゃるやら、私はまだ自分では貧乏人だと思っています、今でも通りでポケットティッシュを配っていたら位の一番に取りに行くのが私ですよ」
クスクス・・・
「あなたの成功の秘訣は何なんですか、定正さん?」
「飢えです、飢えていたから金持ちになったんです、私はまだ飢えています」
定正の真剣な眼差しの中に、百合はキラリと光るものを見た