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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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突如周囲がざわめき、人の話し声が聞こえるようになった。

アリエッタはしばらく目を閉じたままじっとしていたが、頬に何かが添えられたのを感じ、身を震わせる。


「アリエッタ、起きて」


聞き覚えのある声に反応して、もぞもぞと動きだした。


「ん……みゅーぜ?」(あれ、なんでみゅーぜが?)


恐る恐る目を開けたアリエッタが見たのは、心配そうに自分を見下ろしているミューゼとメレイズの顔。そして、その間に見える暗い中に美しい曲線がゆらゆらと揺らめく神秘的な空。

寝ているその場所は、虹の上ではなく雲の上。そう、雲のリージョン『ハウドラント』の公園である。

いきなり間近にあるミューゼの顔に、一瞬ドキリと胸が大きく鼓動した。が、その後に先程までの虹の上での出来事を思い出してしまう。


「うひゃあ!」

「おっと?」


横に転がるように身を起こし、地面にくっつくようにうずくまってプルプル震え出した。その様子を見て「もう大丈夫だよ」とミューゼが優しく声をかけると、恐る恐る周囲を見渡して少しずつ落ち着き始めた。


「あー、よっぽど怖かったのね。ミューゼさん、安心出来るまで抱きしめてあげて。メレイズちゃんも、お母様が来るまでは一緒にいてあげてね」

「はーい」

「分かりました。ほらアリエッタ、おいで~」


名前を呼ぶとアリエッタは振り向く。頭と背に手を伸ばしやさしく寄せると、大人しく抱きしめられてくれる。ミューゼはそんなアリエッタが可愛くて仕方がない。

頭を撫でられたアリエッタは抵抗力を無くす為、何をされてもなすがままだったりするが、幸せ状態になっているアリエッタ本人には、どうしてそうなるのかがイマイチ理解できなかったりする。

抱き寄せてからもう一撫でした時には、その顔から恐怖感がほぼ消えていた。しかし別の緊張が少女の中に発生してしまう。


(え? ミューゼの胸が顔に!? まってこれヤバイ!)

「おっと、大丈夫大丈夫、そんなに震えなくてももう悪夢から出たからねー」

「そんなに怖い事あったの? 震えが止まるまでわたしも手繋いでてあげるね!」


頭部が幸せに包まれているせいで逆に体が強張るアリエッタだが、そんな事は意思が伝わりにくいミューゼ達には分からない。抜け出そうにもミューゼの抱く力がますます強くなり、控えめだが柔らかいクッションを感じながら、手を握るメレイズに色々と一方的に話しかけられるのだった。




少し離れた場所では、パフィとネフテリアが、ピアーニャにドルネフィラーでの事を簡潔に報告していた。


「それでねー、悪夢が消えたらパフィさんってば変な虫みたいにカサカサ動いてたのよ!」

「なんでそこだけしっかりバラすのよ!? あれは地面を登ろうとしてたのよ!」

「いやもー面白くって、ミューゼさんと一緒に爆笑しちゃったわ。あはははは!」

「アクムでたのしそうにするとか、いったいなにをやってきたのだ……」


ネフテリアはあの後、女神の親子が動かなくなって慌てるドルネフィラーに、これ以上はお互いここにいない方が良いと進言した。ドルネフィラーにとっても、相手は神だからこれ以上関わると何がどうなるか分からないと思い、一旦ハウドラントでの夢集めを諦める事にしたのである。

最後に少し話をし、お互い悪い事にはならないよう、世間に広める情報をある程度整理。後はネフテリアの判断に任せると言い残し、その場で悪夢を終了させたのだった。その事については、公園にいる間はまだ話すつもりは無いので、ネフテリアはドルネフィラーと話した事は言わず、詳しい事は後でと言うだけにとどめていた。

その代わり、悪夢以外の出来事と、悪夢を出た時の面白かった話をして、アリエッタが落ち着き、子供達の親が迎えに来るのを待っているのである。

ちなみに、最初にドルネフィラーに取り込まれていた男の子達は、何が起こっていたのかを周囲のシーカー達に聞きながら、アリエッタをチラチラと見ていたりする。そんな小さな青春の姿を、シーカー達はニヤニヤと見守るのだった。


獣の森の中で悪夢が消えた時、その瞬間を見届けていたネフテリアは、目の前の光景を見て笑いを堪えるのに必死だった。アリエッタは転がって顔を隠し、エルツァーレマイアは茫然としながら座っている。そしてメレイズは横たわって直立不動のポーズで目を閉じ、ミューゼはうずくまってブツブツ呟き、パフィはカサカサと這いつくばってミューゼの方向へと蠢いていたのである。

夢の中で夢を見ていただけで実際の距離は離れていなかった為、そんな人物達が集約する光景はカオスだった。ちなみに悪夢の原因であり、ドルネフィラーの意識を持ったディーゾルの姿は、悪夢と共に消えていた。

全てを知っていたネフテリアはまず、ミューゼとパフィに声をかけて気づかせ、残りの3人に声をかけようとした時に突然気が遠くなり、すぐにハウドラントの公園で目を覚ました……という訳である。

周囲のシーカー達はドルネフィラーが消えて騒然としていたが、アリエッタ達を目にしたピアーニャが真っ先に駆け寄り、事後処理の指示を出して今に至る。


「そのメレイズというムスメは、なぜメをとじてジッとしていたのだ?」

「わたくしもナルホドと思ったんだけどね、悪夢は見なきゃいいから目を閉じるって対策らしいのよ。悪夢の半分はそれだけで対策出来るんだって」


ドルネフィラーから直接聞いた有力過ぎる情報の1つである。といってもメレイズはその事を知っていたわけではない。一緒に勉強した母親からの提案…というよりは方便で、1人になって困ったから、それを信じて実行していたという訳である。

情報源についてはまだ話していない為、訝し気な顔をされるが、それも後で話すという事で今は落ち着いた。


「はぁ、やっぱりエルさんはいないのよ……」

「あ、そ、そうね……」


話の合間、パフィは周囲を見渡していたが、エルツァーレマイアの姿は無い。元々外で動く肉体を持っていないので、今はアリエッタの中で茫然としている。夢から戻ってもオバケ呼ばわりされた事を引きずっているようだ。

いきなりドルネフィラーから出てしまったからお別れも出来なかったと、パフィは悲しそうに空を見上げる。その横で、ネフテリアは困った顔でアリエッタをチラ見した。

何の事だか分からないピアーニャは、屋敷に帰ってから詳しく聞かせてもらうつもりなので、今は何もつっこまない。というよりは、今は他に凄く気になっている事があるのだ。


「で、あんなトコロにあんなミョウなキはあったか?」


ピアーニャが指さしたのは、青い斑点が特徴の、黄色の葉を持つ木。アリエッタ達が倒れていた場所より少し離れた位置に立っていたが、辺りが暗いのと、木ということで一旦後回しにされていたのである。


「………………あれ?」

「あの木どこかで見たような気がするのよ?」


他の木は、巨大な鉢や花壇に土が入っており、そこに植えられたのは茶色の幹に緑の葉をつけた普通の木。そんな植木とは別に、雲の上にポツンと1本だけ普通とは違う木が生えているのである。一度気付けばかなり目立つ。


「ってあれ、生えてないわ、立ってるというか、いるというか……なんでこんな所にいるの!?」


ネフテリアとパフィには、その木に見覚えがあった。ドルネフィラーの中でエルツァーレマイアが捕まえた、獣の森の木が生えたカメのような生き物である。


「なんだこのイキモノは?」

「えーっとね……」


その生き物の事を、ピアーニャにかいつまんで説明した。


「……こんかいイレギュラーがおおすぎないか?」

「わたくしもそう思う」(だいたいエルさんが原因だけど、説得とか注意とか出来なかったからなぁ)


疲れ切ってそうぼやく2人を尻目に、パフィは生き物についているドルミライトをじっと見つめている。ドルネフィラーの中で見たそれは赤色だったが、今は青色に淡く光っている。

パフィは後ろの2人に声をかけ、このままだと困るから触ってみると提案してみた。移動させる手段を考える為である。

普通なら触れば夢が展開されるが、この場にいるといつか誰かが触れてしまうからと、実験を買って出たのだ。実際ドルネフィラーにいた存在は、悪夢を除いて無害だった事もあり、その行為自体にはネフテリアも賛成だった。しかし、


「いやいや、パフィさんは駄目。他の人にやらせるわ」


アリエッタにはパフィが必要だからという理由で代役を用意された。

大した理由も話されず、その生き物を動かそうとしてみてくれと頼まれたちょっと可哀想なシーカーの男は、言われたとおりに生き物に触れて動かそうとあれこれ試す。3人は心の中で謝りながら、触れても何も起こらない事に安堵する。もしかすると、おかしな事が起こって犠牲にならなかった事への安堵の方が大きかったのかもしれない。

ドルネフィラーから出てきた理由も、夢が展開されない理由も分からないが、このまま派手で動く木をここに置いておくよりは…と、ピアーニャの実家の庭で管理することになるのだった。

その名も知らない生き物は、その処遇が決まった時、ハッとしたように辺りをキョロキョロと見渡す。そして空を見上げて心の叫びをあげていた。


(……いきなり何かが抜けたように感じたと思ったら……なんでドルネフィラーボクから夢が1つ漏れてんのぉぉぉぉ!?)

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