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カルと朝食を共にしていると、カルからパレードの日付がやっと決まったと話があった。聖女の出す条件を少しのむことになったそうだ。


「君も打ち合わせに参加してもらう予定だったんだが、聖女が君が打ち合わせに出るなら、打ち合わせに出ないと頑なに言い張ってね。まぁこちらとしても君と聖女を合わせたくない気持ちもあったから、色々こちらで決めさせてもらった」


カルは申し訳なさそうにそう言った。アザレアとしては、打ち合わせはおろかパレードすら出たくなかったので、有り難い話であった。


「私は全くかまいませんわ。魔力切れで少し療養しておりましたし、色々決めてくださってありがとうございます」


カルは苦笑する。


「君は話が早くて助かるよ」


そう言うと続ける。


「それとあちらの条件なんだが、パレードに僕と一緒に出ること、それと聖女がパレードの先頭を行くこと。更に自分のドレスのデザインと私の衣装の色を自分が決めたいとのことだった」


そう言って、ため息をついた。アザレアは頷く。


「仕方のないことですわ、公務ですもの」


そう言うと、カルは微笑む。


「そうか、公務だと割り切ってくれるなら良かった。それとドレスの準備も君が寝込んでいたので、制作がだいぶ遅れてしまっていてね、出来上がりが当日ギリギリになるかもしれない。だから君の要望が入らないかもしれないが、かまわないか?」


アザレアとしては、人のパレードに横から出るようであまり気乗りしなかったのでドレスやアクセサリーは準備された物で十分だった。


この前の顔合わせで聖女に良い印象は一つもないが、それでも彼女にはこの世界を救ってもらわねばならない。ある程度譲歩せねばならないのも十分理解しているつもりである。


それでも多少はあの可愛らしい少女とカルが一緒にパレードに出ると考えると、胸が痛まないわけではなかったが。


そんなことを考えながら答える。


「実はデザインはファニーさんに一任してますの。彼に任せておけばきっと大丈夫ですわ」


そう言うと、カルは複雑な表情をした。


「君はファニーを随分信頼しているんだね。まぁ、いいけど」


カルは少し不満そうにした。そして続けて言った。


「そう言えば、どうやら私が忙しくしている間、フランツとも仲良くしているそうだね?」


アザレアは先日のことを思い出しドキリとした。その様子を見たカルはため息をつく。


「君が自由にしていられるようにしたい気持ちもある一方で、君という美しい花に群がる虫を追い払うことができないのがつらくて葛藤するよ。君を選んだ以上、これからもずっとこの悩みは続くのだろうから、受け入れるしかないね」


そう言って微笑んだ。




その後、授業と降臨祭と言う名の聖女お披露目パレードの準備に追われる毎日となった。


そんな中、ファニーとの衣装合わせに向かうため王宮の廊下を歩いていると、前方から神官二人を引き連れて歩いている栞奈に遭遇してしまった。


栞奈はこちらに気がつくと、一瞬ムッとした顔をしたが直ぐにニヤリと笑う。


「ごきげんようアザレア公爵令嬢」


栞奈はトレイル侯爵家の養子となったはずなので、アザレアから話しかけることは許されるが、彼女から声をかけるのは許されないことだった。


最近聖女の問題行動が目に付き過ぎて、貴族間で生ぬるく彼女を見守るのが普通になってしまっている。


異世界からやってきたとはいえ、アゲラタムでこちらの世界の教育は受けているはずだった。だが、一向に成長がみられない。と、ため息混じりに神官たちが噂しているのを、何度か聞いていた。


それでも環境の変化は精神的にも負担だろう。アザレアは彼女を咎めたりはせず見守ることにした。


「こんにちは、聖女様」


挨拶を返すと、何故か聖女は勝ち誇った顔をしている。どうしたのかと思っていると嬉しそうに栞奈は言った。


「貴女、王子の婚約者だと思っていたら、そうじゃなくてただの宮廷魔導師なんですってね」


確かにその通りだが、なぜそんなことを? と思い黙っていると、聖女は増長して一人で話し始めた。


「自分の立場を理解していないようだから言っておくけど、宮廷魔導師ごときが聖女に勝てるわけないのはわかるわよね? その証拠に知っているか知らないけど、王子はパレードのことでは私の言いなりなのよ? 主役は私なんだし、当然だけど。パレードの時はせいぜい出しゃばらないで大人しくしてなさいよね。この死にぞこない」


そう言って、腕を組んで見下ろすようにアザレアを見る。


「それに貴女死んでるはずなんだし、もうそろそろ死ぬかもね。だってそうでしょう? 存在自体が邪魔なんですもの。わかる? 本来は私と王子は結ばれる運命なの。それに、私の推しのフランツ様もね! それにしてもフランツ様を実際に見れるなんて本当に最高だわ! 絶対落としてみせる! それにコリウス様も!! せっかくなんだもの逆ハー狙っちゃおうかしら?」


栞奈は両手を頬に当て、あらぬ方向を見て空想しているようだった。が、急に現実に戻ったようでアザレアを見る。


「あぁ、貴女は追放しないでいてあげる。そばで私の幸せを見てれば良いわ、その方が楽しいもの」


そう言って、微笑む。アザレアの前世の物語だと、もっと性格の良い子だったはずだ。


実際の目の前の聖女は、間違いなく残念な人物だった。栞奈は聖女なのでその立場は尊重されるだろうが、こんな態度では聖女という地位に群がる者はいても、誰も|栞奈《かんな》本人に本気で寄り添うものはいないかもしれないと、少し不憫に思った。


アザレアは返事をせずにいた。下手に返事をすれば栞奈はこちらの反応に喜んで応戦するだろう。それでは火に燃料を投下するようなものだ。


黙っていると、栞奈はニヤリと笑う。


「パレードで貴女がそのすました顔を崩すのが本当に楽しみ!!」


そう捨て台詞を言って去っていった。栞奈の後ろからついて歩いている神官が、通り過ぎる間に何度も何度もアザレアに頭を下げていった。


連れられている神官がなんとも憐れであった。アザレアの後ろについていたシラーが驚いて


「お嬢様、あんな聖女様もいらっしゃるんですね、あまりにも下卑ていてビックリいたしました」


と耳打ちした。その言い方からすると、シラーは相当頭にきているのだろう。アザレアは窘める。


「そんなこと、あまり言っては駄目よ? たぶん、彼女は寂しい人なのよ」


そう言うと、去っていく栞奈の後ろ姿を見送った。


その後ファニーが待っている部屋へ行くと、ファニーは笑いをこらえきれないと言った感じで開口一番言った。


「ご令嬢! 聖女と会った? あいつ、本当に面白すぎだよね!?」


と言ったあと、腹を抱えて笑っていた。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

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