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「お兄様……」
お兄様はこちらを見た。それでも、殿下への反論はなさらなかった。殿下は、証拠も無しに推測を言っている。そうでなければ、お兄様は既に逮捕されているだろう。
しかし。お兄様がそうしたのは真実だと、その沈黙から察してしまった。
私は殿下へ向き直った。
お兄様をそんなふうに言わないでください。言いたかったのに、何を根拠に庇えばよいのか分からなかった。事情も、あの夜にお兄様が何をしたのかも、私は最後まで聞いていない。
ただ大切な兄だからと訴えても、殿下が非難している行為への答えにはならない。
「反論もできないか」
殿下が言った。
私まで何も言えなかった。ここへ来るまで、お兄様の隣であんなに普通に話していたのに。
お兄様が私のそばへ来た。
「帰ろう、マチルダ」
私は頷くしかなかった。
お兄様は殿下へ退去の挨拶をし、店の扉を開けて私を通す。
馬車に乗ってからも、私はお兄様へ何も言えず、下を向いたままだった。
屋敷へ帰り着くと、私はお兄様に「少し、一人にしてください」と告げ、自分の部屋へ戻った。
扉を閉めてベッドに座ってから、涙がこぼれた。拭っても止まらず、私は顔を伏せる。
お兄様が卑怯者と呼ばれた時、私は隣にいた。お兄様のことを誰より分かっているつもりだったのに、何も言えずに立っているだけだった。
否定してほしいと思って、お兄様を見ているだけ。
扉を叩く音がする。
「マチルダ。入ってもいいか」
私は顔を上げた。泣いていると分かる声で返事をしたくなくて、一度、息を吸ってから立ち上がった。
自分で扉を開けると、お兄様が廊下にいる。
「どうぞ、お入りください」
お兄様が入るのを待って扉を閉める。私はベッドに座る。お兄様は私の前で立ち止まった。
「すまなかった。せっかく連れていったのに、サンダイヤモンドを手に入れられなかった」
私は慌てて首を振った。
「違います。宝石のことで泣いているのではありません」
うまく話せると思ったのに、途中で声が詰まる。お兄様は急かさずに私を見ている。私は涙を拭い、お兄様を見上げた。
「お兄様が非難されているのに、私が反論出来なかったのが悔しいのです」
言ってしまうと、ますます涙が出る。
傷つけられたお兄様へ何も言えないまま、一人にしてほしいとまで頼んでしまった。
「お兄様にばかり、お任せしてしまいました。あんなことを言われているのを、黙って聞いていて」
「マチルダが自分を責めることじゃない」
お兄様は屈んで、私と同じ高さで話してくださった。
「俺のために悔しがってくれたんだな。ありがとう。優しい妹を持って、俺は幸せだ」
私はお兄様の袖をつかんだ。今度は一人にしてほしいとは思わなかった。
百鬼清風
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#イケメン
高遠すばる
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#初小説
鬼卍。
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お兄様はしばらくそのままでいてくださり、私が落ち着いてから、上着のポケットから小さな包みを取り出した。
「受け取ってほしいものがある」
私が袖を放すと、お兄様は立ち上がり、テーブルの上で包みを開いた。中にあったのは、黒い木炭のかけらだった。
「炭、ですか?」
「ああ。部屋へ来る前に持ってきた。これから宝石を作る」
お兄様は私室の窓のカーテンを閉めた。振り向いた時、何もなかったところから聖剣ソードウルフを取り出していた。
白銀の細身の刀身が見える。お兄様だけが開閉できる異空間にしまわれた、六属性の術式と魔力を蓄えた剣だった。
私は立ち上がって、テーブルのそばへ行った。
「その炭が、ダイヤモンドになるのですか」
「炭に含まれる炭素を使う。土魔法で取り出して、重力魔法で圧縮するんだ」
お兄様が剣を手にしたまま、包みの上の炭へ魔法をかけた。かけらの一部が細かく崩れ、黒い粒が一か所へ集まっていく。
そこまでは、私にも土属性の魔法だと分かった。お兄様ご自身の属性に土はなく、ソードウルフに蓄えた術式を使っている。
続いて、お兄様がもう片方の手をかざした。
集まっていた粒が浮き、ぐっと小さくなった。私は魔力の動きを追おうとしたけれど、土魔法と同じようには読み取れなかった。これが、お兄様の重力魔法なのだ。
圧縮された塊は、黒い色を失っていった。強い光と熱を放ち、その中に赤が現れ、やがてひとつの透き通った石になった。
「サンダイヤモンド……」
私は出来上がった宝石を見つめた。
店で見た品と同じ、鮮やかな赤だった。強い魔力も感じられる。さっきまで炭だったものが、私のすぐ前に浮かんでいた。
お兄様は宝石を手のひらへ下ろすと、ソードウルフを異空間へ戻した。それから私へ宝石を差し出した。
「こんなものを作り出すのは簡単だ。しかし、マチルダには本物をプレゼントしたかった。今は、これで勘弁してほしい。殿下の言うことは間違っていない。確かに俺は卑怯者だ。反論出来なくてすまない。ナイジェルはお前を殺そうと計画していた。それが許せなかったのだ」
お兄様は、正直に話してくれた。私が聞けば、いつでも答えてくださっただろう。怖くて聞けなかったのは、私だ。
私は、サンダイヤモンドを両手で受け取った。
「いいえ、お兄様の気持ちのこもった、この宝石の方が嬉しいのです」
お兄様が私を見た。
「大切にします。ありがとうございます、お兄様」
宝石を落とさないように握り、私はお兄様に抱きついた。お兄様も抱きしめてくださった。
まだ少し涙が出たけれど、今度は顔を隠さずにいられた。
「これからは、出来るだけ、マチルダにふさわしい兄でいる」
「では、私もお兄様にふさわしい妹でいられるよう、頑張ります」
少し離れて宝石をもう一度見せると、お兄様が声をひそめた。
「系統外の重力魔法は本来、国王陛下の許可なく使うことは出来ない。このことは秘密だぞ。最初で最後だ」
私は宝石を胸元に寄せた。こんな秘密までくださるお兄様が可笑しくて、嬉しくて、お兄様も私と一緒に笑った。
コメント
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読了しました……この話、すごく苦しくて、でも最後に温かくなって、ちゃんと泣きました🥀🤍 マチルダがお兄様を庇えなかった悔しさ、「何も言えずに立っているだけだった」って言葉が胸に刺さりました。自分が一番分かってるつもりの人を守れない瞬間って、本当に辛いですよね……。 でも、それを全部受け止めて「俺のために悔しがってくれたんだな」って言えるお兄様、強すぎませんか?😭✨ それに炭からサンダイヤモンドを作る演出、魔法の仕組みがちゃんと描かれていて、ファンタジーとしての説得力もあって好きです。 重力魔法の秘密を打ち明けるシーン、あの「最初で最後だ」って言葉がもう……特別感がやばいです🥀 大切な人との絆って、こうやって積み重ねていくんだなって思いました。 百鬼清風さんの作品はいつも、キャラの内面が丁寧で、読んでるこっちの感情まで整えられる気がします。続き、静かに待ってますね🌙