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百鬼清風
863
#イケメン
高遠すばる
1,329
#初小説
鬼卍。
70
エドワードは牢へ続く階段を下りながら、鼻を覆いたくなるのをこらえた。湿った石と、洗っていない衣服の臭いがする。
護衛も従者も連れてこなかった。マーガレットにも行き先を告げていない。ナイジェルを失った今、この用件を誰かに任せるつもりはなかった。
「ここからは私一人で行く。お前も上で待て」
案内していた看守がためらうので、エドワードは立ち止まった。
「聞こえなかったのか」
「はっ。ですが、この先何回か鍵が必要なので……」
「私が持つ」
差し出された鍵束を受け取り、看守が階段を上がるまで待つ。鉄格子が並ぶ通路を進むと、奥の牢にいた男が顔を上げた。
灰褐色の短髪に、左頬の古い裂傷。男はエドワードの制服を見て、立ち上がることもせずに言った。
「王太子殿下が、わざわざお越しとは。処刑の前に見物ですか」
ギデオン・ヴァルガ。どの国の正規軍にも属さず、国外で活動する灰狼傭兵団の団長である。ナイジェルから聞いた容貌と一致するが、三十八歳という年齢より老けて見えた。
「お前を雇ったナイジェルは死んだ。おそらく、アーサー・アシュフォードに殺されたのだ。そうなると、お前が捕まったのも、奴の手回しだろう」
「それで?」
「今度こそアーサーとマチルダを始末しろ。引き受けるなら、これを渡す」
エドワードは鍵束を鉄格子の中へ差し入れた。ギデオンはそこでようやく立ち、近づいてきた。
「金ではなく、命が報酬というわけですか」
「不満か」
「いいえ。ここで死ぬよりは、子供二人を殺す方がいい」
子供という言い方に、エドワードは安心した。この男にまでアーサーを恐れられては困る。
「二人は学園にいる。しくじるな」
「承りました。お帰りになったら、すぐにでも」
「このことは誰にも知られてはならない。看守は全員始末しておけ」
ギデオンが格子の隙間から受け取ったのを確かめて、エドワードは引き返した。
階段の上では、さきほどの看守が待っている。鍵を問われる前に、エドワードは通路へ背を向けたまま命じた。
「しばらく誰も近づけるな。私が来たことも口外するな」
看守の返事を背に、エドワードは一人で牢を出た。
ギデオンは王太子の足音が遠ざかるのを聞き、鍵穴へ鍵を差し込んだ。二本目で錠が外れる。
扉を押すと、向かいの牢から団員が起き上がった。
「団長。やるんで?」
「全員出す。騒ぐな」
ギデオンは順に牢を開け、解放した団員を通路の両脇へ寄せた。最後の一人を出したところで、階段から明かりが近づいてくる。
「殿下は何を――」
看守が言い終える前に、ギデオンは階段脇から襲いかかった。剣を抜こうとした腕をつかんで壁へ押しつけ、膝を腹へ打ち込む。看守が屈んだところで剣を奪い、喉を突いた。
団員の一人が倒れる体を抱えて床へ下ろす。ギデオンは血のついた剣を抜き、階段を指した。
「上にもいる。誰も逃がすな」
先に上がった団員が、入口の看守へ飛びついた。争う物音に別の看守が駆け寄ったが、ギデオンはその横腹へ剣を突き入れた。倒れた看守の武器を団員へ渡すと、武装した者から奥の詰所へ踏み込んでいく。
短い悲鳴と剣のぶつかる音が続き、やがて一人が戻ってきた。
「奥は終わりました」
「裏を見てこい。生きている奴がいたら殺せ」
ギデオン自身も詰所へ入り、倒れた看守を一人ずつ確かめた。王太子が通った時にいた者も、奥から出てきた者も、もう息をしていない。裏を確かめた団員からも、看守を全て片づけたと報告があった。
壁に掛かっていた剣と槍を配り、全員が武器を持ったのを見届ける。鍵束はもう要らない。ギデオンは詰所の床へ投げ捨て、団員を連れて外へ出た。
「学園へ行く。兄妹を始末して、そのまま国外へ出るぞ」
ギデオンは休息を許さず、一団を率いて学園へ向かった。
コメント
1件
うわあああ第22話!!!エドワードが自ら牢に降りてギデオン解放するとか、もう王太子のやばさが爆上がりしてるよ…😭🫠「子供二人を♡♡♡方がいい」って台詞にゾッとしたけど、むしろエドワードがそこに安心してる描写がまた恐ろしい…!看守全員始末しろの指示も含めて、もう後戻りできない感がヤバすぎる。学園襲撃編始まったな…って緊張MAXで次話が待ち遠しいです✨💦