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***










「じゃーね澪!


 明後日バスターミナルでね!」



「またな、広瀬」



「うん、またね!」



私は杏と佐藤くんに手を振り、写真を撮るクラスメイトの間を抜けた。



教室を出ても、みんな卒業証書を片手にあちこちで写真を撮り合っている。





校門前は人だかりだった。



見知った友達に手を振り、駅へ向かう。



熱気のようなざわめきから離れたところで、私は足を止めた。






―――――――――――――――――



レイへ。



今日高校を卒業したよ。




―――――――――――――――――






メールを送り、顔をあげれば、すみれ色の空の端が少し霞んでいた。



通い慣れた通学路。



ここから空を見上げるのも、今日が最後だ。







一週間前。



私は杏に電話して、レイに会いに行かないと伝えた。



驚いていた杏は、わけを話すと少し黙ってから言った。



「よし、澪!


 それなら私と一緒に卒業旅行に行こう!!」



杏の提案が嬉しくて、電話しながら少し泣いたのは内緒だ。



約束した卒業旅行は明後日。



県外の遊園地に、夜行バスで遊びに行く予定だ。








お風呂上り、部屋に戻るとレイからメールが届いた。




―――――――――――――――――



卒業おめでとう。



澪が卒業なんて、なんだか不思議な感じがするよ。



―――――――――――――――――




私は苦笑した。



レイが英語の授業に来たことを思い出す。



あの日中庭で1年生に絡まれて、「レイと付き合ってる」と嘘をついて、頬にキスをしたこと。



まだ半年ほどしか経っていないのに、もうずいぶん昔のことみたいだ。








卒業旅行は楽しかった。



遊園地の規模が大きくて、一番大きなジェットコースターは乗ると心臓が飛び出そうだったのに、あれを連続で乗ろうとする杏はすごい。



旅行から帰ってすぐ、杏と佐藤くんと一緒に、一週間限定の工場バイトもした。



時間は朝9時から夕方5時まで。



こうして杏たちと一緒にいると、卒業していても実感なんてわかない。




バイト最終日。



着替えて杏と外に出ると、通用口で佐藤くんが待っていた。



「お疲れ、やっと終わったなー」



「ほんと、疲れたー!


 ねぇ、今から3人でなにか食べにいかない?

 ぱーっといこうよ!」



杏は佐藤くんの傍で振り返って言った。



「澪は? 行きたいとこある?」



「そうだなぁ……」




駅へ向かいながら考えていると、佐藤くんが言った。



「店は電車の中で決めようか。


 とりあえず家に連絡しとこう」



「そうだね」



スマホを出した佐藤くんに倣って、私もスマホを取り出す。



だけど触れても画面が真っ暗なままで、電源を押しても反応がなかった。



「……私、充電切れてるかも」



「えー、ほんと?」



「うん……なんか最近調子悪くて」



ここのところバッテリーの調子が悪いのか、電池残量があっても落ちることがある。



「それなら私ので電話しなよ!」



「ありがとう。借りるね」



杏のスマホを受け取ってすぐ、手の中でメッセージが届いた。








「あ、杏。なにか来たよ」



「え?」



スマホを杏に戻せば、画面を見て杏がとても困った顔をした。



「ん? どうしたの?」



「二ノ宮、これ」



私の横で、佐藤くんも弱った顔をして杏にスマホを見せる。



「あぁー。


 お母さん、佐藤くんにも送っちゃったんだ」



「どうしたの?」



「いや……。


 うちのお母さんがね、お父さんが今日佐藤くんを呼んで欲しいって。


 一緒にごはん食べようって言ってるって……」



「えっ、それなら行かなきゃじゃん!」



思わず杏を覗き込めば、弱った目とぶつかった。



「でも……」



「私のことはいいから。 ほら、急いで帰ろう」








「佐藤くんも」と言えば、彼も弱ったように眉を下げた。



「……ごめんな、広瀬」



「ごめんね澪。


 また一緒にごはん食べよう」



「うん、約束ね」



電車に乗り、10分ほどで杏たちの乗り換え駅に着いた。



ドアが開く直前、私は佐藤くんに冗談めかして言う。



「頑張ってね。


 杏のお父さん、杏にべた惚れだから」



「ちょっと、澪ー!」



乗客が動き、私はふたりに手を振った。



「またね、お疲れさま!」



電車が発車して、手を振り返す杏たちが見えなくなると、私は車内を見渡した。



少し先に席があいている。



そこに座った途端、堪えていた息がこぼれた。







本当は羨ましかった。



当たり前みたいに一緒にいられる、杏と佐藤くんが。



彼氏を家に呼んで、家族と食事をするなんて、私には絶対叶わないことだから。








窓の外は薄闇に包まれている。



ふたりの笑顔を思い出していると、レイにメールを送りたくなった。



ダメもとでスマホを掴んだ時、脇ポケットの腕時計が見えた。







私は少し迷って、腕時計をつけた。



私がつけてもやっぱり違和感しかなくて、似合わないそれを見て苦笑する。



最寄り駅のアナウンスが流れた。



外そうとベルトに触れて、私はなにもせず立ち上がった。




……やっぱりやめた。



今日はこのまま帰ろう。



私にとってのレイは、今はこの時計だから。













































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