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今日も今日とて💚💙
第三話 🍨アイス日和〜ひみつのひと匙
亮平 side
今日も今日とて、風呂場に小さな秘密を持ち込む。
冷凍庫から連れ出した白いカップは、今日一日の頑張りの証。翔太みたいに毎日じゃない。これは、仕事をやりきった日の、特別なひと匙だ。
湯気の向こうで蓋を開ける瞬間が好きだ。
薄いカップの蓋を剥がすと甘い匂いがふわりと立ちのぼる。
肩に残っていた緊張が、静かにほどけていく。
リビングで物音がする。
お風呂上がり、スキンケアを終えた翔太が、冷蔵庫を開ける音だ。
彼もまた至福の時間を迎えている。
翔太は知らない。
だって俺だけの秘密だから……
頑張ったご褒美は俺一人だけの至福の時間。
この秘密が、より幸せを増幅させる。彼も知らない俺だけのひと時が背徳感を生み〝特別〟なものへと変わる。
冷蔵庫が閉まり、ソファーに座る生活音。
ペリッと、同じようにフィルムを剥いだ音が鳴ったような気がして、彼がカップに鼻を寄せて〝んー幸せな香り〟と言って満面の笑みで笑う姿を想像した。
ひと匙すくう。
きっと彼もひと匙――
その想像を掬い上げた瞬間、現実の足音がした。
熱を帯びた空気の中で、ゆっくり溶けだしたアイスをスプーンで一口。
冷たい甘さがくっきりと形を持つ。
今日一日、誰にも見せなかった弱さが、そこでやっと溶ける。
もうひと匙。
――足音。
一瞬だけ手が止まる。
振り向く前に、扉が少し開いた。
「……やっぱり」
翔太の声。
怒っているわけじゃない。けれど、少しだけ拗ねた響き。
「それ、俺のアイス?」
「違う。俺の」
反射みたいに言い返してしまう。
翔太はアイスが好きだ。毎日食べる。それが彼の習慣で、安心で、締めくくり。
だからこれは、分けないつもりだった。
ご褒美くらい、自分だけのものにしてもいいと思っていた。
けれど、湯気の向こうでこちらを見る目が、少しだけ寂しそうで。
胸の奥が、ちくりとした。
「……ひと匙だけ」
差し出すと、翔太は一瞬迷ってから受け取った。
触れた指先が、やけに温かい。
その温度が、溶けかけたアイスよりも甘い。
口に運ぶ仕草を、つい目で追ってしまう。
目を細める、その顔。
唇の端に、ほんの少しだけ残った白。
「ついてる」
無意識に指が伸びて、そっと拭う。
翔太が驚いた顔をして、それから照れたように笑った。
――ああ。
そんなこと、最初からわかっている。
俺は、甘さを独り占めしたかったんじゃない。
ただ、知らなかった。
想像だけでは、満ちない甘さがあることを。
こんなに近い甘さを知ってしまったら、
もう戻れない。
この顔を、誰より近くで見たかっただけだ。
「おいしい」
小さく言うと、翔太は少しだけ肩を寄せてくる。
湯気の中、距離がほんの数センチ縮む。
もう一度すくったひと匙を、今度は迷わず半分に分ける。
翔太は素直に口を開けた。
分けた分だけ、甘さが増すなんて知らなかった。
秘密だったはずの時間が、静かに形を変える。
ふたり分のひと匙で、今日という一日が静かに満ちていく。
コメント
5件
💚ちゃん、ラムネ買い置きの話もあったし、食べ物関連の花凛💚💙可愛いなあ
本日ユートピアの投稿はお休み💤 こちらに没頭し過ぎて、ユートピアのストックがなくなりつつある🤣 雑誌の表紙にあったご褒美アイスの阿部ちゃんを見て思いつき、雑誌買っても、読んでもいないのに勝手な想像で描きました💚💙